請う
血の気の失せた肌は窓からの月明かりに映えて、まるで冷たい人形みたいに見えた。
息をしているのかと不安になって、微かな呼吸を確かめる様に手を伸ばす。
「…………帝人?」
けれどその顔に巻かれた包帯が目に入った瞬間、伸ばした指は触れることも出来ずただきつくきつく握りこまれた。
帝人がこうなった理由は知らない。聞けば分かるのだろうが知りたくも無いと思った。知ったところで時間が巻き戻せるわけでも無いしこの傷が無くなってくれる訳でもない。不毛なことを考えるのは向いてない。それよりも今、自分が出来ることを必死に考えるのが先だった。
暴力と暴力と、暴力。嫌になる程それしかない俺が、コイツにしてやれることは何だ。どんなに制御が出来るようになっても、肝心な時に役に立たないのならそれはどこまで行っても本当にただの『暴力』でしかない。
散々考えて考えて、それでも結局思いついたのはたった一つだけだった。
「俺がお前を守ってやる」
―――守ってやれなかった!!
「もうこんなケガ、二度とさせねぇ」
―――こんなケガを、させた!!
「俺がずっと、お前の側にいる」
―――どうして、俺はお前の側にいなかった?!
今感じているこの全ての血が沸騰する様な怒りの矛先は、まず何よりも自分に向かっていた。「大切だ」「大事だ」なんて言っておきながら、その危機にも気付かず守れもしなかった自分に。けれど他に何も思いつかない何をすればいいどうすればいいどうしたらいいってんだよくそちくしょぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!
焼け爛れるような胸の内に渦巻く咆哮は、その奥底に帝人を失う事への恐怖も孕んでいる。もしも、もしもこのまま目を覚まさなかったら?目を覚ましてもその先は?そのもっと先は?無事でいる保障なんかどこにも無いと今更気付いて愕然とする。
二つの感情に無様に震え続ける手を、もう一度伸ばす。何度も躊躇いながら、包帯だらけの小さなその手に触れて、ガラス細工でも扱うみたいに両手でそっと取った。
「だから、なぁ。早く目ぇ覚ませよ、帝人………っ」
柔らかな掌に、みっともなく掠れた囁きと願いを込めて口付ける。
未だ眠り続ける少年の、その心にまでけばばいいなんて、本当にらしくもなく祈りながら。