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【ゆきさくら新刊サンプル】愛し愛し【沖千】

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「なんですか?」
「それ、何?」
千鶴が持ってきた盆を指差し、沖田が問いかけた。
盆の上には沖田にとって見覚えのありすぎる薬包と愛用している湯呑みが二つ。
そして好物の一つである団子が乗っている。その問いかけに対し、千鶴は笑顔で答えた。
「これですか? 松本先生からお預かりしたお薬です」
「…千鶴ちゃんはさ、何の害もありませんって顔して、平気でこういうことするよね」
「? お薬は何の害もないですよ?」
 微笑みながら答える千鶴に、今度はわざとらしく、盛大な溜息をついてみせる。
「何言ってんの? まず味に害があるじゃない」
「良薬口に苦し、ですよ。沖田さん」
言いながら、千鶴は薬包と白湯を同時に差し出す。
ちょうど飲みやすい温度にまで下げられた白湯は、飲まないという選択肢を許さない強迫のようにも見える。
「あ、でも口直しがありますから! ほら、お団子!」
それはまるで薬を嫌う子供をあやすような態度。
そんな対応に沖田はむっとした表情を千鶴へと向ける。
それは千鶴の目には拗ねた子供のように映っていた。
その姿はここへ来る前に土方に聞いた通りのものだった。
渋々といった体で、沖田は薬包と白湯を受け取った。
「このお団子、近藤さんが預けてくださったそうです。沖田さんが好きなものだからって」
「…そっか、近藤さんが…」
千鶴の言葉に苦笑しながら、沖田は薬包を開いていく。
そこには見慣れた白い粉末。
何度これに苦しめられたか分からない。
何度むせたかも思いだせない。
そして、これを飲んだからと言って確かな効果を得られるとも限らなかった。
だが、効果が得られないとも限らない。
自分の体調と、初めて発作を起こした日。
そして寝ている時間が増えたこの状態になってからの時間。
それらを総合して考えると、もしかしたら現在の状態を維持出来ているだけでも十分と言えるのかもしれない。
これは良薬。
少なくとも、石田散薬よりは。
そう言い聞かせながら、沖田は薬包の中身を口の中に流し込んだ。
粉末の流れをよくするため、一気に白湯を飲み込む。
だがうまく飲み込むことが出来ず、むせてしまう。
少しでも楽にしようと背中をさする千鶴に、沖田は思わず苦笑した。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。いつものことだから」
けほけほと、顔を背けながら沖田は千鶴の問いに答える。
そして、盆の上に置かれた団子へと手を伸ばした。
「どうぞ」
「ありがとう」
差し出されたお茶を受け取り、沖田はそれも喉に流す。
その行動を見届け、千鶴は腰を上げた。
「…どこ行くの?」
「え?」
部屋の外に出ようと敷居へ足を向けた瞬間、千鶴の袴の裾が引っ張られた。
その手の主に目をやると、そこには小さな子供のような目をした沖田が居た。
置いてけぼりを食らった子供のような目に、千鶴は苦笑する。
「ねえ」
「炊事場です。貸していただいた湯のみを返しに」
「いいよ、そんなの」
「でも…」
「いいってば。いいからここにいなよ」
「…」
むっとした様子の沖田に、千鶴は苦笑する。
だが、沖田の顔に笑みは浮かばない。袴の裾がどんどんきつく握られていく。
「それとも何? あんなこと言っておきながら、本当は冷やかしに来たの?」
「…っ、違います」
「じゃあ座って」
掌で畳を叩きながら、沖田は千鶴をじっと睨みつける。
その視線に負けるように千鶴は沖田の方へと向き直った。
「…」
「ここで、一君が来るまで待ってなよ」