namida
ともすれば泣いているのかどうかもわからないくらい大人しく裕介は泣く。触れたまま固まった蒼龍の手をぎゅっと裕介は握り返す。子供特有の甘ったるい暖かさが伝わった。
「いやだ、」
裕介の言葉は端的だ。蒼龍はその整った顔を思いっきり眉寄せて必死に裕介の言葉尻を捉えようとする。
「やめようか?」
「やめちゃだめだ、」
伏せた瞳からひとつふたつと滴が零れ落ちる。部屋に置いた淡い色の洋灯に照らされてそれはまるで異国の宝石のようだった。
恭しい手つきで裕介の滴を拭ってやる。触れる裕介の頬は恐ろしく冷たい。
「嫌だから泣くんじゃないんだ……」
「じゃあ」
「これが終わったらどうせ行っちゃうんだろ」
これだから子供はすっぱりと時間を止めてゆくと思う。胸を貫き直接心臓を握られているようだと。(とんでもないところで駄々を捏ねるのだから)(この子は、)
「裕介、あのね、」
蒼龍はゆっくりと裕介の頭を撫で回す。
「俺はお前と閨を共にしようがしまいが、行くよ」
裕介がまっすぐと己を見つめる。
ああ。なんて愛おしく時は流れてゆくのだろう。蒼龍は今自分がどのような感情を抱いているのか表現するのに戸惑う。嬉しいのか、悲しいのか。寂しいのか、いとしいのか。ただとても目の前の少年を愛していることに変わりはなかった。
(そんなに残念そうな顔をさせるために)(私はいるんじゃないんだよ、)
「温かいね、裕介は」
「……名前、」
「え」
「もっと、名前、呼んでよ」
ゆうすけ。呼ぶ度に彼の白い頬は冷たく濡れた。ただそれは悲しいことじゃない。
「嫌じゃないんだ。嬉しいんだ──蒼龍が俺に触れるのが、」
弱くなったと思う。こんな風に泣きつかれるのが、狂おしいほど(嬉しい……)。
夜がいっそう濃くなればいいなど。朝が広がらなければいいなど。
「裕介」
静かだった。本当に、静かだった。裕介の嗚咽だけが自分の全てのようだった。