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裕介はふっと力を抜いてベッドに横たわった。
あんまり部屋でちかちかと光るものだから面倒になって携帯電話の電源を切る。
どうせ一番欲しい相手からの連絡はくるはずがないのだ。
(そもそも誕生日なんて……)(教えたつもりもない、)
感情とは勝手なものだと思う。自身から何のアプローチも掛けていない癖に実際にその時が訪れると何故彼から何もないのかと。裕介は自己中心的な己をほんの少し恥じた。ゆっくりと瞳を閉じると、ぼんやりとしたシルエットで彼の姿が浮かんだ。今日はてっちゃんからあげてんかのコロッケとリョーチンからはかわいらしいブックカバーをもらった。オヤジはいつもよりいも飴を多くくれたし、学校の友達もこうしてお祝いの言葉をくれる。父ちゃんと母ちゃんと俺でささやかな誕生日パーティーもした。なのに、どうして、(こんなふうにしか俺は笑えないんだ……)
「裕介、なんでお前はいつもそういう顔をしている」
温い霊気が瞬間的に部屋を包む。裕介は飛び起きた。瞳を開けるとそこには閉じていたときに見えていたシルエットよりももっとずっとはっきりしたものが存在していて、裕介の口がわなわなと震える。ようやく出た言葉は掠れた。
「嘘だろ……」
おやおやと蒼龍が眉を寄せる。
「酷い言い草だ……確かに5分遅刻したが……これでもお前のために時間を作ったんだ。遅れたのは……ちょっと、時差ぼけってやつさ」
「え、ごめん、取り敢えず意味分かんない」
裕介のあまりに明け透けな物言いに蒼龍は溜息をつく。
「……そろそろ寒い季節だろう。そんな薄着でいるんじゃないよ」
「ああ、」
裕介が少し下を向いた一瞬の間だった。心臓が跳ね上がり、口から飛び出しそうだ。(なんだこれ、)(蒼龍の匂い、)(わっ。)
「裕介、君に温もりを残していきたいんだ、」
「それがプレゼントってわけ?」
「本当にお前は口が減らないな」
ちょっとむっとした彼の頬を摘まんで、軽く引っ張ってやった。痛い、と顔を顰める蒼龍を見て、これがどうやら幻想の類でないことはわかった。ぎゅ、と胸が苦しくなった。
「──最高のプレゼントだよ!」
しがみついた裕介の小さな体に蒼龍の体温が移ってゆく。たったこれだけのことで世界がとてつもなく明るくて鮮やかなものだという事を思い出す。裕介は今までの己が愛されていた事実を悟る。世界は限りなく裕介に甘かった。(さっき食べた、ケーキみたいだ……)
「可愛い奴め」
蒼龍の微笑みにようやく裕介も笑みを零した。耳元で彼は甘く囁く。
「ハッピーバースデイ、裕介」