白と黒
それをぼんやりと聞いていると人の気配がして、目を向けるとテーブルの上に黒い封筒が置かれていた。
男は横たえていた体をゆっくりと起こし、寝台の端に腰かける。
色を見れば宛名や差出人など書く気がないことは明白であるそれに手を伸ばし、指先ではじくように裏返した。白い封蝋と押された印璽を認めると、男はそれを遮断するように瞼を閉じた後、少女へ目を向けた。
金色の鳥かごの中では、少女のかわりにオルゴールが歌っている。
小さなそれはすぐにぜんまいが緩んでしまうようだった。
それを巻きなおしては、はじめは速く、やがてゆるやかになり、また止まる。というのを繰り返している。
視線をテーブルへ戻すと、手紙の用意は整えられていた。
白いままの便箋を折り封筒へ入れ、黒の蝋で封をする。これが破られないことを男は知っている。
(愚か、というのはこういうことを言うのだ)
溜息でもつきたいような気分になり、それを目をわずかに眇めてやりすごした。
テーブルの隅の黒い封筒を摘みあげると、視線を向けることなく寝台の脇へと落とす。
かさり、と乾いた音をたてて落ちた。
無数の封筒。封をひらかれることなく積み上がる、黒の山。
男はゆっくりと倒れこむようにして寝台へと横たわる。
オルゴールに飽きたらしい少女は、また細く歌いはじめていた。
-
やぎさんゆうびん