明日降る星について
そのニュースを聞いて、妙は一人の男を思い浮かべた。
彼は今日もまた、どこかの星を巡っているのだろうか。
感傷に浸った妙が男と再会したのは、その日の夜のことであった。毎度のことながら彼は突然やってきた。
「お妙ちゃ~ん。久しぶりじゃあ!」
「…こんばんは、坂本さん。帰って来てたんですか?」
言外に、連絡ぐらいくれれば…と含ませるが、男の訪問が予想外なのにはもう慣れてしまっていた。
「驚かしたかったんじゃけんど、迷惑じゃったかえ?」
「まさか。でも、こっちに来れるのはまだ先になるって…」
「お妙ちゃんと星が見とうてのう」
早めちゃった! あっけらかんと言い放った坂本の顔を、ぽかんと眺める。
「流星群が見れるんじゃろう?」
にこにこと大層楽しげな様子を見て、妙は困ったような笑みを浮かべた。言い出しにくそうに男を見上げる。
「坂本さん…。それ、明日の話ですよ」
首を傾げた妙に、今度は坂本の方が瞳をまたたかせた。数秒の空白の後、玄関先でずるずるとしゃがみ込む。
「ほんなら、今日は…」
「残念ながら見れません。けど、明日また一緒に――」
慰めるように声を掛けた妙は、そこで坂本の様子がおかしいことに気付いた。どこかバツが悪そうな顔である。
「もしかして、すぐに戻るんですか?」
「今夜だけっちゅうて、無理やり休み貰ったんじゃあ」
失敗したぜよ…。しょぼくれる男がらしくなくて、少し面食らう。どんな事態でも、常に快活に笑い飛ばす姿しか見ていなかったから、きっとかなり貴重な光景だろう。
それほどまでに自分と見たかったのかと思うと、急に男がかわいく思えてくるから不思議だ。うなだれる様が大型犬のようだと、垂れたこうべをそっと撫ぜた。
「ねえ坂本さん。流れ星は見えませんけど…。冬の星空は綺麗ですよ?」
あなたが回った星を教えてくださいな。
ふんわりと、妙が柔らかく微笑んだ瞬間、腕が引かれた。驚いた妙が男の腕の中で身じろげば、さらに力が込められる。
そっと瞼の上を大きな手のひらが覆い隠した。
「なん、ですか?」
「見ちゃあダメちや!」
必死の叫び声に、何事かと思って首を回す。しっかりと覆われた手に阻まれてよくわからなかったが、指の隙間から覗いた男の顔は、見事なまでに真っ赤に染まっていたのである。
思わず吹き出した妙は、またらしくない男に愛しさが募り、その首に思い切り抱きついた。