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白紙のラブレター

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 びりびりと、細かく千切られた紙片が風に乗って舞っていく。端から段々と小さくなっていくそれを見守る少女の顔は浮かなかった。窓辺に佇んだまま、ただ風に吹かれていく様を眺めている。
 音もなく少女の背後に忍び寄った男は、ひょいとその紙切れを取り上げた。
「コラ、そんなとこに捨てるんじゃねェよ」
「先生。いたんですか?」
 驚いた様子で、妙がびくりと肩を跳ね上げた。忍び足は全蔵の特技である。
「いたんですかって、ここは社会科の研究室だからね」
 むしろこっちの台詞だと呆れた調子で紙を振る。
「何だよ、これ。ラブレターとか?」
「いやだ、先生の時代じゃないんですから」
「…お前は俺のこと幾つだと思ってんだ」
「冗談ですよ」
 素っ気無く返した少女は、「でもあながち外れてないかも…」なんて不穏な呟きを漏らす。
 全蔵は焦る思いを押し隠し、先ほど妙から奪い取った紙切れを広げた。書かれていたのは、名前とクラスと英数字の羅列。
「今朝渡されたんですけど。よかったらメールして下さい、ですって。面倒でしょう?」
 取り敢えず、心底嫌そうな顔の少女に安堵する。だがへの字になった全蔵の口は戻りそうになかった。
 不機嫌なオーラを感じ取ったのか、前髪で隠れた己の瞳を覗き込むようにして、妙が小首をかしげてみせた。
「それでも捨てるなって言いますか?」
「あー…まあ、あれだ。俺が言いてェのは一つだけだ。ゴミはゴミ箱にってな」
 若干力を込めてくしゃくしゃに丸めると、足元の屑籠に投げ入れる。三年C組の鈴木君の思いは、明日には呆気なく灰になっていることだろう。
「先生って…」
 何かを言いたげにこちらを見やる妙の手にそっと重ねる。
「意外とヤキモチ妬きなんだよ、俺は」
 少女の言葉の先を予想してニヤリと笑った。人の悪い笑みを浮かべた全蔵に、ようやく妙の口元も綻ぶ。
 ああ、やはりその方が―――なんて考えてしまった己に思わず苦笑した。
「まあ、そんなヤツのことは早く忘れるんだな」
「心配しなくても、私は先生のことしか見えてませんから」
「へェ…俺ァそんなに思われてんのか」
 無邪気な笑顔の妙を見て、安堵する自分がいる。そんな己に呆れながら、からかうように見下ろせば、むっと眉を寄せた少女に軽く睨まれた。離そうとする手を握り締め、空いた手でカーテンを引く。
 ふわりとそよぐ風と共に、少女の甘い香りが届いた頃には唇が重なって。少しだけ頬を染めた妙を腕の中におさめ、全蔵は機嫌良さげに少女の髪に口付けた。

作品名:白紙のラブレター 作家名:hari