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ちょこ冷凍
ちょこ冷凍
novelistID. 18716
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CPP-ACP

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野球部のメンバーは、ミーティングだけの日もいつも通り一緒に帰るぐらいには仲が良い。
 だから、栄口と帰る方向が一緒で良かったと心底思う。
 誰にも怪しまれず二人きりになれて、そのまま家に連れ込む事だって出来るから。
 何で見られたくないかって、そんなの思春期男子が付き合っている奴と部屋に隠ればする事なんてたかが知れている。
 男子同士で、はあんまり無いかもしれねーけど。

 荷物を適当に降ろして、ベッドに腰掛けた栄口を当たり前のように押し倒すと、抵抗する事も無く首に腕を回してくる。
 時間に余裕がある時は、このまましばらく抱き合いながら唇を寄せ合うのがオレも栄口も好きだった。
 気分が高揚して、体温の上昇を感じた方から相手の服を脱がしにかかる。
 そうして今日も上半身裸になった所で、栄口が控えめに問うてきた。
「あべ……咬んでいい?」
 何を言い出すのかと栄口の目をじっと見つめると、思っていたより真剣な表情をしているので無言で頷く。
 それを確認すると、組み敷かれていた栄口は腕をゆっくり解いて起き上がり、交代、と小さく呟いてオレの肩をそっと押した。
 言われるがままにベッドに体を沈めてやると、添い寝をするように横たわってから、左腕だけで体を支えて身を起こし、オレの鎖骨に軽く口付ける。
「普通、首筋じゃねーの?」
「オレはドラキュラか」
 じゃあ何で咬むんだよ、と返そうとすると、栄口がそのまま優しく歯を立ててきた。
「痛い……?」
「痛くねーよ」
 右腕を栄口の首に回すようにして、短い髪の毛を撫でてやると栄口は擽ったそうにして笑う。
「……もうちょっと強く咬んでもいい?」
「あー」
 視線を天井に向けて与えられる感覚を待っていると、栄口はさっきと同じ場所に歯を当ててから、遠慮がちに力を入れた。
「痛くないの?」
「大丈夫」
「そっか……。ありがと」
「満足したのか?」
「これ以上やったら、傷付けちゃいそうだから」
 ちょっと痕が残っちゃった、と鎖骨を擦る右手を取り、体を引き寄せると素直に体重を預けてくる。
 骨張ってはいるが、栄口と素肌が触れ合うのは心地良い。
「齧歯目、サル科、さかえぐち」
「サルは齧歯目じゃねーよ。ってかサルって何だよサルって」
 オレの胸に顎を乗せたまま、栄口が睨みつけてくる。
「見た目がサル」
「……うるせーウニ」
「あ?」
「ウニ頭!」
 そう言って、起き上がろうとする栄口の背中に腕を回し、再び抱き込む。
「知ってっか? リスって放っておくとどんどん歯が伸びるんだぜ」
「へー……。詳しいね」
「昔飼ってたからな」
「阿部が!? リスを!?」
「別にオレが飼いたいって言い出した訳じゃねーよ」
 今にも吹き出しそうなのを堪えている栄口に軽くデコピンすると、痛い、と額をオレの胸にグリグリと押し付けてから、顔を上げた。
「リスの歯が伸びたらどうするの?」
「あちこち咬んで、勝手に自分で削ってる。さっきのお前みたいに」
「あー……。その、ごめん」
 自分の奇妙な行動を思い出したらしく、栄口は顔を赤くして目を逸らしながら謝罪の言葉を呟く。
 なるべく負担が懸からないように体を引くと、うつ伏せのままベッドに落ちた栄口を背中から抱きしめた。
「何だったんだよ、さっきの」
「……自分でもよくわかんないんだけど、阿部の裸を見たら急に歯がウズウズしてきて、咬んでみたいなーって」
「鎖骨に?」
「んー……まあ、骨に……かな」
 本当にわかんないんだよーと、栄口は枕に顔を埋めて頭を抱えている。
「やっぱお前、齧歯目なんじゃねーの?」
 足をばたつかせて唸っている様子が可愛くて、思わず腕の力を込めれば、あべ、苦しい、と体の下から苦情が出た。
 もう一つ強く抱いてから腕を離し、仰向けに転がると栄口が様子を伺うように覗き込んでくる。
「眠くなってきた」
 そう言って目を閉じても、まだ夕日が差し込んでいるのがわかるぐらい目の裏が明るかった。
「少し寝るか?」
「うん」
 いつも横向きで眠る栄口は、オレの肩にキスをするように身を寄せてくる。
 ほどなくして、控えめな寝息が聞こえてきた。
「疲れてんだなー」
 視線だけ栄口に向けて思わず独りごちてから、それはみんな一緒か、と心の中で思い直し、改めて目を瞑る。

 本気で咬まれたら、自分の体にはどんな痛みが走ったのだろうか。
 栄口の事だ、真っ向から頼んでもその願いは叶えてくれないだろう。
 目が覚めたら栄口が要求を飲み込むしか無い状況に持ち込んでみるか、と未知の感覚に思いを馳せ、眠りについた。
作品名:CPP-ACP 作家名:ちょこ冷凍