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稜(りょう)
稜(りょう)
novelistID. 11587
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【独伊♀】Your Knight 1【サンプル】

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『簡単さ、時間になったら電話で起こして、車に乗る前に忘れ物の確認。時間割とか行事のチェックは欠かさずやっとけ。あ、そうそう、制服のリボンはよく忘れるから注意しろ』
 滔々(とうとう)とした言葉にめまいを覚える。聞いているだけでは、まるで幼児のしつけだ。
「……明日は心がけます」
 よほど弱りきった声が出ていたのだろう。仕方ないさ、と一転してなだめる調子になった。
『フェリシアーナはよくも悪くも「お嬢様」だからな。悪気はないから、大目に見てやれ』
「それはわかっていますが」
 わかってはいるが、いきなりの遅刻はかなり痛かった。社長からの叱責は確実だ。彼女を恨みに思うのはお門違いだろうか。
『ま、一週間なんてすぐ終わる』
「はい」
 ――一週間の辛抱、か。
 苦々しい思いで電話を切る。正直に言えば、待ち遠しくてたまらなかった。

 放課後、彼女を再び車に乗せて習い事に向かった。
 ちなみに月曜は華道、火曜は合唱団、水曜はピアノ、木曜はスイミングだ。火曜を除く、月曜から土曜は、他にも学習塾がある。
 月曜日の今日は華道だ。稽古場は閑静な住宅街にある、いかにもそれらしい邸宅だった。
 木でできた門を開けると、玉砂利の敷き詰められた庭園が広がる。いにしえの時を凍りつかせたような光景を見ていると、自然と背筋が伸びた。
 風に揺れる松、玄関までの飛び石、威厳を放つ玄関、すべてが計算ずくのようでありながら、自然に調和を取り、風景の一部となっている。
 引き戸を叩いてしばらくすると、軽い音を立てて戸がひらいた。十代半ばごろの少年に向かってフェリシアーナがあいさつをすれば、大きくうなずく。
「いらっしゃいなんだぜ!」
 家に上がり、チョッチョルーと鼻唄を歌う少年についていく。
 どこからか涼やかな楽器の音が聞こえる。庭には小さな池があった。鯉が数匹泳いでいる。
 歩くにつれて旋律が大きくなることに気づいた。どうやら源に近づいているらしい。少年がふすまを開けた瞬間、解き放たれるように楽の音があふれた。
 肩をおおう黒髪を持つ少女が琴をつまびき、やや長髪の少年が鼓(つづみ)を打ち、性別のわからない風貌の人物が笛をかまえ、着物を着た青年が三味線を抱いていた。
 入って来た三人に気づき、三味線の青年が手を上げる。演奏がぴたりと止まった。
「続きは今度」
 その言葉に、青年以外は楽器を持って退出する。重そうな琴は、ルートヴィッヒたちを案内した少年が片づけを手伝っていた。
「お待たせしました」
「素敵だったよー」
「ありがとうございます。……そちらの方は?」
 黒い瞳が彼を見る。吸いこまれそうな色だと思った。
「ルートヴィッヒです。ボヌフォワの代理を務めています」
「そうですか。私は華道師範の本田菊です」
 頭を下げられ、あわててならう。特に威圧的な様子はないのに、気後れしてしまう。
「準備をして、はじめましょう」
 特にすることもないので、窓の外をながめる。はさみの音が広い室内に響く。
「空間との調和を――」
「花自体の風合いを生かして――」
 時たまの穏やかな声が、散漫になる意識を引き締める。

 華道の後は学習塾に向かった。
 塾は部外者立入禁止のため、車で待機することになる。続きを書こうと日誌を広げた瞬間、朝からのあれこれが思い出された。
 初日からこれだ。この調子で一週間も続けるなど、本当にできるのだろうか。
 ――それでもやるしかない。
 自分に言い聞かせる。なにがあったとしても、とにかくやり抜くのが肝心だ。これは仕事なのだから。割り切ればいい。割り切るしかない。
 そうは思うが、疲労は肩に重くのしかかった。
 彼の一週間は、まだはじまったばかりだというのに。