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いつか無くす記憶のために

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「満足?」
 私がそう言うと、彼は微笑んだ。頬に刻まれた皺も、目尻のそれも、緩んだ。彼のしわしわの手が、私の頬に触れる。窓ガラスに映る私の顔は、まだ若い。黒々とした髪も、みずみずしい肌も、彼と出会ったあの時のまま。時間が止まっている。魔女。魔女とはこういうものだったのか。魔女の力を誰かに継承しないと、私はこのまま老いない、まま。
「リノア」
 彼の優しい声が私を呼ぶ。魔女の騎士。私を守ってくれる、最愛の人。ベッドで横たわる彼は、すっかりと老いてはいたけれど、まだ若い頃の精悍な面影を残している。美しい、彼はとても美しい。
「スコール」
 窓の外はキラキラと、光が降り注いでいる。あぁ、死ぬならこんな日がいい。魔女の力を継承したとき、私は私になった。だから私は、彼の剣を待つだけでいい。それはきっと、気が狂いそうになるほど遠い年月。
 彼の答えは、聞こえなかった。
「スコール」
 私は彼の、名を呼ぶ。窓の外はキラキラ輝いている。ぽろりと涙がこぼれた。さよなら、スコール。私が記憶を無くして、貴方の刃に倒れるとき、また貴方に出会うことができる。
 有限の時間の中で、永遠に永遠に、私たちは出会い続ける。愛してるよ、スコール。世界が壊れちゃうくらい、愛してる。ずっとずっとスコールのこと待ってるよ。だから早く、迎えに来てね。