return to 0
きみはずっとずっとあのやさしい時代に還りたがっていた。いくら憎しみを燃やそうと、その根底にあるのは悲しみだった。だから私もいつも悲しくて。悲しくて、きみの肩に顔を埋めるしかできなかったんだよ。僅かにあたたかい体温に触れて私は少し安心して、でも涙が止まらなかった。きみの匂いが、細いからだが、ただそれだけがきみの存在を私に教えてくれた。
わたしはそれでよかった。わたしの僅かな体温でもってきみを自分のそばへつなぎ止めていられるなら、なんでもよかった。君をゼロにしたくなんかなかった。すべて起こってしまったあとでも、そこからまた歩き出せると、なぜ君に伝えられなかったんだろう。君は君であってほしかった。でもどんなに君が自分を見失っても、私だけは君を見失いたくない。
ねえ、どうしていってしまったの。
私にはもう還る場所がなくなってしまったよ。スザク、ただ君が恋しい。
君が無になったというなら、もう一度還る場所をつくるよ。何度でも何度でも、還っておいで愛しい人。
作品名:return to 0 作家名:たかむら