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ひとつの恋がおわるとき

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白黒世界。雨の日の英国はそう例えるのが妥当だが、この国はそうではなかった。色とりどりの傘、長靴、水たまりに移った風景すら色づいていて、今ではまったく別の風景を持っている。
雨の日の、米国のダイナーが好きだ。真っ赤な椅子。モダンな店づくり。英国のアンティークな雰囲気はどうしたって大好きなのだけど、ここでは違った気持ちになれる。雨の日でも客足は途切れないタフな人々には気圧されるけれど。

「いつまで泣いてるんだアメリカ」

雨を感じさせない国にいながら、ひとり大雨に打たれている輩がひとり。アメリカは眼鏡をテーブルの上に置き、めそめそめそめそと泣いていた。擦りすぎた目が赤い。

「だって、大好きだったんだ。プレゼントだって惜しげもなくあげたのに、何が気に食わなかったんだろう」

アメリカが未練たらしく口に出す会話の内容はもう数時間同じ内容で、途切れのないループ。いい加減にしろと怒鳴るのにも疲れ、まずいコーヒーだけがどんどん注がれていく。紅茶がないダイナーに呼び出したアメリカを少し恨む。まあ、あったとしてもろくでもないものだろう。どうしてこの国は、黒い飲み物が好きなのだろう。コーヒーといい、コーラといい。

いつも明るいこいつは滅多に落ち込んだりしない。きっと泣き終えたらそれで完結するのだろうけど、時間がかかりすぎる。

「勘弁してくれ…」

そう口にすると、ばっとアメリカの顔が上げられた。しまった。面倒臭い。

「君も見捨てるのかい?こんな寂しい子羊を見捨てるのかい?」

「そんなこと言ってないだろ。もうお前、ほんと面倒臭い」

うる、と再び涙が吹き出す。もう放っておいていいかなあ、仕事で来たのに仕事になりゃしない。
それでもこの席を立つことはできないのだ。まったく、こいつに甘いのも考えものだなと思うことは今回限りじゃないけれど。

「イギリスが女ならよかったのに」

「は?」

口に運びかけたカップをソーサーの上に置くと、ガチャンと大きな音がしてコーヒーが零れた。砂糖とミルクとジャムで思い切り味を変えたそれは、びしゃ、と下品な音を立てた。

「だってそうすれば、ずっと一緒にいられるじゃないか」

アメリカはぐず、と鼻を啜る。鼻水が汚いからハンカチを投げつけてやった。礼も言わず、アメリカは鼻をかむ。結構いい値段がしたんだけどね、それ。

「ずっとって。お前ずっとひっついてる気か」

「え?」

アメリカの目は純粋だった。おかしなことを言ってるのはあっちなのに、まるでこっちが変なことを言ったような。

昔も一度、こんな目で見られたことがあった。国へ帰ると言った時、え、どうして。なんでここにいてくれないの。あのとき、アメリカはまだ小さかった。一度は独立を選んだくせに、離れることを選んだくせに、こいつはまたそんな目で見るのか。

俺の気分が沈んだのを敏感に察知したらしいアメリカは、眼鏡を拾って俺の顔を覗きこんだ。
泣いていたのはあいつのはずなのに、どうして俺の気分が落ちなきゃいけないんだ。全部全部こいつが悪い。こいつのせいで、俺はいつも振りまわされる。

「イギリス?どうしたんだい」

ぴたりと涙が止まったアメリカは、まだ目は赤かったけど、普段と同じような口調で呼びかけた。アメリカの大きな手が俺の頬に触れる。お前さっきその手で鼻水拭ったよな。そうやって罵りたくても、なんだか喉の奥がかゆい。

「やっぱりあれかい、一心同体だと感情も伝心するのか」

またこいつは突拍子もないことを言いだした。一心同体だなんて、ふざけるな。お前と一心同体になるなんてごめんだし、そもそもこいつは俺から離れていったじゃないか。
自分が昔をずるずる引き摺り過ぎていることくらいわかってる。だけど俺は、こいつのように過去を忘れることなんてできない。
弟みたいに思ってた。でもやめたんだ。情を捨てて、ひとりの国として扱おうとそう決めたのに、こいつはこうやってそれを許してはくれない。

そういう負の感情が胸に渦巻いたけれど、それでもアメリカの手は大きくて、頼もしくて、温かかった。
こいつが俺を捨てはしないこともちゃんとわかってる。俺がそれにうまく感情を乗せることができないだけで、物事は悪い方向に進んでいないことだってわかってる。昔と何一つ変わっていないことだって、わかってる。

アメリカの手の上に自分の手を置いて、少し頭を乗せた。

「どうしたんだい、珍しいな。甘えたい時期なのかい?」

「うるさい黙れ。お前さっき散々迷惑かけたんだから、少しくらいいいだろ」

アメリカの目はもう悲しみに暮れてはいなかった。ただ少しだけ寂しげな目で、大きな窓から外を見る。

「雨の日は気が落ちるからね」

やっぱりそうか。雨のせいか。
目を閉じると煩わしい店内の声とBGM。本当に下品な国だな、ここは。

アメリカの手の脈打つ感覚と、自分の鼓動が重なるのがわかった。一心同体、ね。やっぱりごめんだ。でも。

「なんだかね、イギリスがいればそれでいいって気がしてきたよ」

完全に失恋から立ち直ったらしいアメリカは、腹が減ったと呟いた。それは手を離せという意味なのか。知るか。力を緩め、もう一度アメリカの手を握り直した。

アメリカは俺がいる限り、俺はアメリカがいる限り、きっともう二度と、孤独はやってこないだろう。
作品名:ひとつの恋がおわるとき 作家名:ニック