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Real World

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「隣、いいかい?」
スタンディングスタイルのバーで声をかけてきた男。何故目が覚めたらこんなことになっていたのかわからない。

「記憶がねぇ」
ぼさぼさになった頭をがしゃがしゃ掻いていると、隣で同じように裸で、キングサイズのベッドに枕を挟んで寄りかかり、下半身を律儀に隠した状態の男はこの世の終わりだとでもいうような絶望した表情で前を見ていた。
「おーい、起きてんのか」
顔を真っ青にしたままこちらを見ず、現実を認めようとしない目の前で手を上下に動かしてみる。彼のきれいな金髪が、激しく揺れた。
「すまない!!」
布団から飛び出したかと思うと、いきなり金髪が土下座をした。反動でベッドが大きく揺れる。
その行動に、こちらも顔が真っ青になる。
「え、ちょ、まじかよ。おれが下?」
「すまない!残念ながら私にはしっかり記憶がある」

自分が男に抱かれる日が来るなんて、一体どうして予想できようか。嘘だ、嘘だと頭の中で連呼し、とりあえず服を着ようと足を動かすと、とてつもない痛みが全身に走った。
「何だこれいってえ…」
「すまない、わたしも酔っていて…つい無理を」
伸ばされた腕を、反射的に弾いてしまった。彼の腕は行き場をなくし、シーツの上にこてんと転がる。あ、と思って彼を見ると、怒られた子供みたいにしょんぼりしていた。
「悪い、謝るから、そんな目でおれを見るな」
小柄な体が更に小柄に見える。年下を甘やかしてしまう性質がはたらいて、彼の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

彼はものすごく単純な性格をしているらしく、ぱ、と表情を明るくさせた。
「ニール!コーヒーを淹れよう」
うきうきと真っ裸のままベッドから降りた彼と正反対に、おれは再び顔面から血の気を引かせた。

捨てた名前が、彼の口から。何故。マイスターになってから、アイルランドを離れてから、一度も呼ばれたことがなかった。しばらくぶりに聞く響きにどうしたらいいのかわからない。
「ニール?」
「…名前」
金髪の男は、ん?と首をかしげ、その後納得したように笑ってコーヒーメーカーのスイッチを入れた。
「ああそうか、君は記憶がないんだったな。もちろん君の口から聞いたのだよ。他人から名前を聞き出すなんて紳士的ではないだろう」
「おれが言ったのか…」
昨夜の記憶が、本当に何もない。昨日は生身の人間に、相手はユニオンだったが、銃を向けてしまって少し気持ちが荒れていた。酒の飲み過ぎは禁物だとあんなに言い聞かせていたのに。

気持ちが酒で緩んでいたとはいえ、本名はトップシークレットに値する。こりゃ報告書じゃ済まないなと思う反面、ばれなきゃいいかとも思う。
そんな重大な情報を自らしゃべってしまった。偶然出会ったアメリカ人に。
「あんた、名前は」
万が一のことがあってはいけない。同じように相手の情報を知っておき、口止めのために布石を敷いておくのは必要だ。
「グラハム・エーカー」
グラハム。頭に縫い付けるように、何度も何度も頭の中でその名を呼んだ。グラハム。グラハム。グラハム。

コーヒーを注ぐ音がする。朝にふさわしいコーヒーの匂いがそこらじゅうに漂った。
「仕事は?」
カップをソーサーに置くカチャ、という音がした。未だベッドに座ったままのおれのもとにコーヒーが運ばれる。おれにコーヒーを渡すと、グラハムの人差し指が唇に当てられる。
「紳士的でないと思いつつ君の職業を尋ねたのだが、教えてくれなかった。情報はギブアンドテイクだよ、ニール」
グリーンの瞳に強く射ぬかれた。単純だが、賢い。やりにくい相手に捕まったものだと、思わず眉を動かす。
コーヒーに口をつけた。なんだかとても、許せない味をしていた。
「薄いな。あんたアメリカ人か」
最後の一文字はベッドに背中を強く打ち付けたせいで、押し出されたような言葉になった。熱いコーヒーがじわりじわりと純白のシーツを濡らしていく。そのコーヒーのしみは、ベッドにつかれたグラハムの手で一度せき止められ、左右の逃げ道を見つけて再びじわりじわりと進んでいく。
「ニール。君は魅力的だ」
首筋に唇を押しあてられたあと、それがおれの唇を塞ぐ。時間の流れが突然止まったような気がした。
目覚めのコーヒーで酔ってしまったのだろうか。それとも彼のグリーンの瞳は、何か強い魔力を持っているのだろうか。
自分の身体なのに、瞼がゆっくり下ろされるのに反抗することはできなかった。
作品名:Real World 作家名:ニック