夢見
夢見が悪かったある日、しくりと傷む心を持て余し、タクトは学校を途中でサボった
花の香りを纏わせ、ゆったりと海辺へと続く階段を上っている途中で、スガタに声をかけられ振り向く
やはり心配をかけてしまったか、と追いかけてきた相手に首を傾げ名前を小さく呟き、息を静かに吐いた
(明らかに様子が変だったもんな。ああ、でもサボらせてしまったなあ…)
だが、眉を寄せ睨んで近寄ってくるスガタに少し驚く
「…どうしたんだ?今、授業中だろ?…まさか、サボりかな?」
と、すっ呆けたように小さく笑みを漏らし窺い問うと、鋭い瞳は少し和らぐが、そっちこそどうしたと問う声は固い
どう答えようかな、と考えている内に階段下までスガタは来ると、突然風が吹く
自分からうんざりするほど強く匂う花の香りが相手のところまでいったのだろう、頭を振るスガタに今朝見た夢を思い出す
届かない、手
どんどんと遠ざかる姿にきゅうっと眉を顰めるが、すぐそこにいる相手に──ここは夢じゃなかったなと、ふわり、笑みを漏らした
後ろからは光が差し自分の顔は見えないだろうと思いつつ、こちらからはよく見える相手に目を細め、とん、と階段を蹴る
ふわ、と重力を感じさせず側へと舞い降り、近くまで寄るとその冷えた氷のような手でスガタの頬に触れた
───ああ、届いた…
泣きそうになるその感情を必死に抑え、小さく呟くと笑みを浮かべる
やっと見えた表情に安心したのか、その泣きそうな顔に不安を抱いたのか、スガタも表情を歪めるとタクトの体をかき抱いてきた
何時もは何故か慌てるその体温に安堵し、息をつくと背中に手を回す
もっと感じたいと、擦り寄りぎゅうっと、力を入れる
(僕、甘えているようだなあ…)
僅かに苦笑を浮かべ、抱き返すその腕に瞳を閉じた
────早く何時もの元気な姿に戻ってくれないと調子が出ないんだ
とぽつり呟くスガタに、ああ心配をかけてしまったと覆われた腕の中、あともう少し待って、と心の内に思う
しばらくして何をしているのか、とはたっと我に返り、慌てて離れようとするタクト
(頬は真っ赤に染まり、スガタは楽しそうに微笑んでいた)
後にワコからいつの間にか撮られ抱き合う姿に、ぎゃあっと顔を染め叫ぶタクトであった
(油断することなかれ?)
しみじみと二人は思う