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うつわ

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(短い)
 カチカチカチ……とシャープペンシルの頭を何度か押すと、あっさりと芯が机の上に落ちた。
 どうやら、随分短くなっていたらしい。
 ペンケースからシャープペンシルの芯が入ったケースを取り出して、その中から一本、新しい芯を本体に入れる。
 カシャン、と頭部分を元に戻したところで、それまで黙っていた風丸が口を開いた。
「一本だけ入れるんだな」
「?……ああ」
 それがどうかしたのかと訊けば、「いや」と少し笑う。
 こちらを誤魔化そうとする言い方は余り好きではないが、だからといってわざわざ深く追究するのもどうかと思い、結局唇を引き結ぶ。
 ――それよりも、早く部誌を書いてしまおう。
 昨日の当番は円堂と半田で、パラリとページを捲ると、二種類の筆跡でそれぞれ一言ずつコメントのようなものが書かれている。
 半田の方は、『ランニングがキツかった』と読むことが出来るが、ハッキリ言って円堂の方は、とてもではないが書かれたそれが『文字』であることを思わず疑ってしまう。
 とめ、はね、はらい。直線も曲線も大きさも無視した、無法の線。
 ここまでくると、むしろ一種の芸術品かもしれないが……。
 せめて、後で自分で読み返せる位のレベルを保って置いてもらいたい。
(……まあ、円堂だしな)
 ――――余り、期待はできなさそうだ。
「――さっきの話なんだけど、」
「……?」
「一本しか入れてなかったら、やっぱり使い辛くないか?」
「……ああ、いや――俺は、基本的に二本入れてるんだ」
「二本?」
「ああ」
 どうやら、さっきの質問の意味を自分は少し取り違えていたらしい。
「――てことは、一本を予備で入れてるってことか?」
「そういうことだ」
「……うん、何か――」
「?」
「何となく、らしいな、と思ってさ」
「……そう、なのか?」
「ああ」
 ――何か、そういうの、鬼道らしい。
 もう一度繰り返された言葉を反芻して、今度こそ首を傾げる。
 ――よく分からないが、風丸の中ではそんな方程式が出来上がっているらしい。
(……本当に、よく分からん……)
 この『風丸一郎太』という男は、どうにも掴みきれない――というのが、今の自分が抱く素直な感想だった。
 もともとはMFだったようだが、今の風丸は雷門のDFだ。そのため自分とはポジションも異なるし、連携技も無い。
 だから、当然練習はほとんど別々である(ミニゲームを除いて)。
 
 ――――それに。
 
 何せ、初対面が初対面だ。
 今更、あの時のことを謝罪するには時間が経ちすぎているし、それを踏まえた意味でも、自分が『ここ』に馴染むなどは虫が良すぎる話だろう。
 
 ――――悪かった、と。
 
 済まなかったと言って、全てが無くなるはずも無く。
 そんなことを言って許しを請うような真似を今更出来るはずがない。
 本当ならば自分は、ここにいてはいけない『もの』なのだ。
 それでも、誰かの言葉に甘えて、このチームで世宇子中と戦うことを望み――結局は『ここ』に存在している。
 だから、せめて自分だけの都合でこのチームに妙な動揺をさせたくはなかった。
 そのためには、少なくとも自分が揺れてはいけない。
 馴れ合いを求めているわけではないと示しつつ、ほんの少しだけ彼らを真似て。
 そうすることで、少しでも波風を立てないように――――。
(……上手く、やれているだろうか?)
 ――時々、不安になる。
 自分は、自分で決めたような振る舞いができているのかと。
 しかし、そんなことを尋ねられる相手がいない以上、考えて注意深く生活していくしか方法は無い。
(――――本当に、どうしようもないな……)
 ――自分はもう、こんなにも違う。
 サッカーを好きだと言っても、今までやってきたことが無くなることはなく。だから、本当の意味で彼らを共にサッカーをすることはできないのだ。
 きっと、もう二度と、そんな日はこない。
 ――そのことを哀しむ資格さえも、ありはしない。
 
 ――――ギシ……。
 
「――――っな?!」
「……熱は無いみたいだな」
「は……?」
「いや、さっきから手が止まってるし、急に動かなくなったからさ」
「……」
「それで、大丈夫か?何なら後は俺が書くぞ」
 ――鬼道みたいに、とはいかないけどな。
 冗談めかして笑う、女みたいな顔が離れていく。
 ようやく風丸との距離が元に戻ったことで、自分の思考も再度、ゆっくりと動き始めたようだ。
「ん?」
「……いや、あと少しで俺の分は終わる。悪いが、もう少し書かせてくれ」
「それは構わないけど――むしろ、いつも悪いな。ほとんど任せ切りにして」
「いいや」
 むしろ、自分が勝手に自分のペースを持ち込んでいるのだと思うと、やはり悪いような気がする。
 ――帝国の時の習慣が抜けない。
 それを雷門に持ち込んでいることへの、罪悪感……。
 
(――――ロクでもない……)
 
 分かってはいるし、だから改めなければと思う。
 しかし、いつも『そこまで』なのだ。
(――あと少し、)
 だから、どうか今だけは見ない振りをして欲しい。
 そんな自分勝手な自分に、何度も同じ言い訳を繰り返している――――。
 
 《終わり》
許されないと分かっているから
作品名:うつわ 作家名:川谷圭