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ちょこ冷凍
ちょこ冷凍
novelistID. 18716
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メモワール

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昔は、ってほど前の話じゃないけど確かに高校生の頃ぐらいまでは女が好きだったんだよ。今だから言えるけど篠岡の事はかなりいいなあって思ってたし。いや、別に何も無かったって、マジでマジで。大体篠岡って阿部が好きっぽい気がしたんだけどなあ。アプローチとかされなかったの? さあ、ってさあ……。まあオレが女で、あの頃阿部の事を好きになったとしても告白しようなんて思わなかっただろうけど。いや、だから例え話だってば! キモいとか言うな! 引くな! それだけ阿部が栄口栄口って過干渉してたって事だろ! 言っとくけど阿部なんか本気で好きになる物好き、他にいないんだからなー。……いや、そこ怒る所だからさあ、ちょっと嬉しそうな顔するのやめてくれない? あーはいはい、お前らが仲良いのはもう十分過ぎるぐらい知ってる、知ってます。いいよなー、同じ部屋。オレも泉と毎日くっついて寝たいのになー。あ、そうだ。何で泉と付き合うようになったのかって話だった。改めてそう聞かれると……。そうだなあ。一言で言うなら、オレの努力の賜物……ってちょっと阿部、どこ行くんだよ! トイレ!? あのさあ、自分で振ったんだから最後まで人の話ちゃんと聞けよ……。


 泉に対して抱く感情がもしかしたら恋かもしれないと気が付いたのは、高校一年生の秋だった。
 夏合宿が終わった頃から泉の挙動が気になって気になって、暇さえあれば目で追って、むしろ暇じゃなくても集中力の半分が泉に向かってたからしょっちゅうモモカンに怒られて、そんなオレを見て呆れつつも叱咤してくれるのがバカみたいに嬉しかった。そんな感じで違和感には気付いていたから、実際自覚した時はそれほど驚きもせず、溜飲が下がるって言うのか? ああ、そっか、とすんなり納得したのを覚えている。
 好きな子が出来たらリサーチがてら近付いて、程々に仲良くなった辺りでアピールして、オレにたっぷり夢中になった頃合いを見計らって告白する(ここまで来れば大体相手が先に焦れて言ってくれるけど)っていうのがオレなりのセオリーだったのに、泉に関しては第二段階で早々に頓挫してしまった。空気が読めない奴だと花井や巣山に言われ続けたオレだって、さすがに相手が同性、しかもどちらかと言うと常識人の泉となれば一筋縄じゃ行かない事ぐらいわかる。
 だからオレは様子を伺いつつ、理由を作っては纏わり付いていた。しばらくすると泉自身もだんだん何かがおかしいと気付き始めたようで、でも西広や栄口みたいに上手に距離を取れる程対人スキルがある訳でも無く、結局真正面からぶつかるしか無かったらしい。
 意を決したように詰め寄られたのは、あと一月もすれば二年に進級するという頃だった。
「なあ、お前何でそんなにオレにばっか構うんだよ」
 確かあの年は暖冬な上に春の到来が異常に早く、入学式を待たずに桜が満開になってしまうぐらい陽気の良い日が続いていたんだった。三年生が卒業して行った分少し広く感じる校内に昼寝のベストスポットを見つけたと誘い出し、予想以上に気に入ってもらえた秘密の場所で二人きりの昼休みを過ごすようになってから数日、ついに泉が切り出してきた。
「んー? 泉が好きだから」
 泉の右隣に寝転び、腕を顔に覆わせ日差しを遮ったまま事も無げに答えると小さな舌打ちが聞こえる。
 急にそんな事を聞かれてもオレが動揺しなかったのは、ずっとこの日を待っていたから。正直、ガッツポーズでもしたいぐらいだ。
 オレと違って思った事を軽々しく口にしたりしない泉は、よっぽどの確証が無い限り核心に触れたりしない。それが今こうしてオレに詰め寄って来ていると言うことは、オレの好意が確実に伝わっている証拠だった。
 しばらくの沈黙の後、勢い良く起き上がった泉がオレの腕を乱雑に掴んで顔の上から退かし、おい、と短く呼ぶ。
「何?」
「オレは真面目に聞いてんだよ」
 陽の光がダイレクトに注がれ、眩しくて目を細める。すると不意に陰り、同時に温かな気配が感じられてそっと視界を戻すとその先で泉がオレの顔を覗き込んでいた。
「……いずみかわいー」
「はあ!?」
 思わず漏れた正直な感想に、泉は気分を害した事を隠そうともせず声を荒げる。
 それぐらいじゃめげもしないよ。これからゆっくり時間をかけて、オレがどれだけ泉に惚れ込んでるか教えてやるんだから。
 放られた手を彷徨わせ、泉の身体を支えている左腕を捜し当てたオレは一気に自分の方へ引っ張った。バランスを崩した所を抱き止めたかったのに、こんな場面でも反射神経の良さを発揮した泉はとっさにオレの身体の右側へもう片方の腕をついてしまう。
「残念、もうちょっとだったのに」
「っぶねーなー、ふざけんな!」
 垂れ下がる少し長めの黒髪が、オレの頬をくすぐる。きれいなストレート、と太陽に照らされ煌めいた所を撫でると、少しだけ距離をおいてオレを覆う身体が固まった気がした。
「泉」
 頬に滑らせた手のひらで、思春期特有の凹凸をなぞる。
「好き」
 耳の後ろから指を髪に差し入れそっと後頭部を引き寄せれば、一瞬迷ってから、泉の顔が降りてきた。


 最近知ったんだけど、オレがどう出ようか考え倦ねている内に泉もその気になってきたんだって。付き合うようになってからオレの事いつ好きになったの? って何度も聞いてたのにずーっと教えてくれなかったんだけど、この前かなり飲むペースが早かった日あっただろ? あったっけ? って阿部もいたんだけど……。とにかくあの後、泉すげー酔っぱらってて、ペラペラ喋ってくれたんだよねー。酒の力は偉大だよな! ……お前なんか、ってのが引っかかるけど、どこが良かったのか、かー。あ、ほら、泉って次男の割には面倒見が良いから、オレとか三橋みたいなダメなのを放っておけない所あるからじゃない? ……何その初めて知ったみたいな顔。えー!? 三年間一緒に野球やってきて今なんか一緒に暮らしてるのに、そんな事にも気付かないのかよ! ……阿部って本当に興味を持つ範囲が狭くて深いよなあ。まあ、阿部はこの先も栄口の事だけ考えてなよ。そう言えば最近ちょっと野球に現を抜かし過ぎてるんじゃない? オレなんか未だにあの頃の習慣が抜けなくて、すぐ泉の後を追っかけちゃうのに。ああ、いいの、大丈夫。泉が鬱陶しがっているように見えるのは大抵照れ隠しだし、本当に放っておいて欲しい時はちゃんと見分けられる自信あるから。
 オレ、不思議なぐらい泉の事は何でもわかるんだよなあ。
作品名:メモワール 作家名:ちょこ冷凍