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【幽静】みつけること

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町中で幽を見かけるということは実はそう多くはない。
 たとえば撮影のひとときであったり、オフで外を出歩いているときだったり、友人でさえそう出会うわけでもないのだから当然のことではあるが静雄が外で幽を見かけるということは、実は結構まれなのかもしれない。
 しかし、目に付くのだ。町中出会う回数はそう多くはないのに、確かに平和島幽と出会ったという印象がその脳裏には刻み込まれる。
 それは幽がアイドルだからということもあるだろう。
 普通の人間では持ち得ないオーラというものは、芸能人である幽には確かに存在する。
 それは元々幽自身が持っていたオーラと、また芸能という社会に身を置くことによって鍛えられ、成長したものとの相乗効果である。
 そうして遙かに普通の人間よりも強くなった幽のオーラというものは、確かに人の記憶に己の存在を刻み込むのだ。
 それは、兄である静雄にとっても同じ効果をもたらしている。滅多には見かけないはずの幽の姿を、たまたま見かけただけで『また』いたと認識するようなそんな効果だ。
 そうしてそんな『また』を静雄は今まさに体験していた。
 何かの撮影だろうか、幽と、あと数人のよくテレビで見るような顔の人間たち。それを取り巻くスタッフだろう人間と機材。
 その中で、幽だけに静雄の視線は吸い寄せられていた。
 この間会ったのはいつだっただろうかと静雄は思い返す。記憶が定かではないことからも考えるに、きっと前に会った時からは結構な時が経っているのだろう。
 それでも、静雄は『また』幽に会ったのだと認識する。
 当然のことながら、声はかけない。静雄はただ遠目で幽の姿を確認するだけだ。
 その姿を目に焼き付けるように。まさにそんな言葉がふさわしいようなまなざしで静雄は幽を見つめ続ける。
 ふ、と幽の視線が上がり、何気ないしぐさでどこともなく周りを取り巻く人混みを見渡した。どこを見るでもないまなざしが周囲の人間の顔をなめていき、そしてただ一点を見つめて少しだけその瞳が色を増す。
 人混みに紛れていたはずなのに、確かに自分をみつけた幽に静雄は驚いた。端から見てみれば周囲の人間と比べ頭一つ飛び出ている身長の静雄は、金髪と言うことも相まって相当に見つけやすい。
 幽もそれに習って同じように頭一つ飛び出た静雄をみつけただけなのだが、静雄自身にその自覚があまりない為静雄はいつも驚かされていた。
 それでも、幽が自分に向けられているまなざしを感じ取ったのは静雄を見つける前のことだ。ファンが自分に向けるのとは違う、明らかな意志を感じるそれ。
 ファンが行き過ぎ、ストーカーじみた狂信者となった者が向けてくるまなざしともまた違う。切望と、嫉妬と、一見すればファンが向けてくるものとさして質の変わらないもののはずであるそれだが、そこに含まれている感情は幽が愛してやまない相手のものだということをひしひしと肌で感じる。
 そう思って幽が視線をあげた先には、案の定静雄がいた。目を合わせた静雄の表情はひどく呆気にとられていて、おそらくは突然自分を見つけだされたことに驚いたのだろうと推測されるが、ただ静雄を見つけだすことだけならば自分でなくともできるだろうと幽は思っている。
 しかし、こういった形で静雄を感じ取ることは自分しかできまいとも幽は思う。静雄が唯一、愛と、情と、欲をない交ぜにして見つめる相手。
 それが自分なのだと、幽は自覚している。
 気づけば静雄は幽の視界から姿を消していた。それもまたいつものことだ。仕事の時に限らず、静雄は幽が他の人間と共にいたり、また周囲に人間が多いときはあまり積極的に幽に声をかけてこようとはしない。
 自分の存在、というものを静雄は静雄なりに理解しているのだ。こういった場で静雄が幽に話しかければ、どういう影響があるのかとしっかりと把握している。
 オフの時ならばそんな事を気にすることもなく幽は静雄を追ってしまうのだが、今は仕事中だ。即座に頭を切り換えて目の前の仕事に集中する。
 後で電話をしようと幽は思った。恐らくはいつの間にか姿を消した静雄も同じ事を考えているだろうと確信しながら。
作品名:【幽静】みつけること 作家名:あや