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王子とロイ

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「ざけんな!」
 怒声に少年がびくりと身体を震わせた。しかしそれは一瞬のことですぐに身構える。
 ロイが腰に手を回す。武器を出すのか、と思えば腰元から武器を抜くとそれを放り投げた。床を滑り壁にぶつかり止まる。
「来いよ」
 左手は握り拳を作り、右手の手のひらを自分に向けてひらひらと二、三度挑発するように動かした。
 少年はロイを睨みつけると自らも腰元の武器を抜き去り、床に投げる。それはついと床を滑り、ロイの武器にぶつかるとカチリと音を立てた。
 その音を合図のように少年が地面を蹴る。真っ直ぐロイのふところに飛び込むと右ストレートを繰り出した。しかしロイはそれを正面からかわすとお返しとばかりに右アッパーを仕掛ける。それを少年は寸でのところでかわすとバックステップをして体勢を立て直した。
「やるじゃん」
「……」
「褒めてんだぜ?喜べよ」
「ありがとう」
「かわいくねー」
 ひらひらと手を振りながら言えば、真顔で返される。思わずぼやいた言葉に少年は君と同じ顔だ、と呟くとまた一歩踏み込んだ。
「同じじゃねーよ。俺はなんたって卑しい顔、だからな」
 ボディブローを狙ったものか、深い踏み込みにロイは後退して間合いを取る。少年がチッと舌打ちしたのが聞こえて、お下品なこったと笑った。
 深い踏み込みから地面に手をついての足払いをロイはひょいと飛んでかわす、と少年は急に立ち上がった。予想に無い動きに不意をつかれたロイの顎に少年の頭突きが決まる。
「ってえー!お前頭固いなー」
 顎を押さえながらひいーとロイが言えば少年は右手で頭を押さえながら、笑った。
 それはいつもの穏やかな笑いでも上品な笑いでもなく、唇の端を吊り上げるだけの「卑しい笑い」に思えた。
「てめえ」
「ロイ」
 少年に名を呼ばれ、構えようとしたロイの動きが止まる。
 笑みを浮かべたまま少年は右手で握り拳を作り、左手の手のひらを自分に向けてひらひらと二、三度挑発するように動かした。
「来いよ」



 右頬を殴られれば左頬を殴り、ボディブローをされればローキックを入れる。そんな応酬が続き、クロスカウンターがお互いの左頬に入ったところで二人同時に崩れ落ちた。
「つーかさ、なんで、んなこと、なったんだっけ」
「さあ…忘れた」
「あーんだっけ…あんたがくだんねーこと言うから、俺が怒ったんだっけ」
「そうだっけ」
「あーくだんねーほんっとくだんねーことした!」
 ごろりと床に寝そべる。左手に硬い感触があったことにロイがちらりとそこを見ると最初に投げ捨てた武器が落ちていた。
 引き寄せて眺める。似ているがこちらは少年のものだったのにロイは床に座り込んでいる少年に「ん」と差し出した。
「ありがとう」
 少年が笑いながら受け取る。ふんわりと、穏やかな微笑みだった。
「あんたはやっぱそーだよなー」
「何が?」
「なんでもねー…ってかさ、あんた、水の紋章持ってるか?」
 いてえーと頬を押さえるロイに少年は自分の両手を見、うーんと目を寄せて額の間を見ようとして――無理を悟り、やめた。
「確か、今は違う」
「まじかーどうする、これ」
「これって」
「顔だよ、顔!」
 ぺち、と自らの頬を叩いてロイはすぐさまいってーと両頬を押さえる。顔と言われてもピンと来ない少年は自分の頬をロイと同じように触れ、ぴりっとした熱さにすぐに手を離した。
「鏡見てみろよ。外歩ける顔じゃねえぞ」
「鏡…」
「あーじゃあ俺の顔見てみろ」
 来い来いとされて、少年はロイの顔を上から見た。じっと眺めて、何か違うっけ?と考えて、うわっと声を上げる。
「大丈夫?」
「お前も同じ顔してんだよ。俺の心配してる場合か」
「えっ」
「外、出られねえだろ?」
「ああー…しかし、手当てをしてもらわないと」
「やめとけー俺はともかくお前が外出たら大騒ぎだ」
 あーいってーとロイは呟きながら起き上がる。
「医者呼んでくるからお前はじっとしてろよ」
「いや、行く」
「いや、行くってなぁ…お前の顔見たらリオン卒倒するぜ?」
「行く」
 じっと見つめられ、ロイは溜息をついた。いつもの丹精な顔であったならその顔はさぞかし迫力があったんだろうが、今の顔では台無しだ。
「あー俺なんて怒られるんだろう」
「ロイは悪くないだろう」
「誰が悪いとか悪くないとかじゃなくて、王子さんをぼっこぼこにしたってだけで俺はコレもんなの」
 コレ、と右手で首を斬る真似をすると少年は冗談じゃない、と珍しく怒ったようだった。
「影武者やってる間はとりあえず首を斬られるってことはないだろーけどな」
「当たり前だ。僕がそんなことはさせない。影武者じゃなかったとしても」
「へえ」
 頼りない少年だと思ってた頃に比べれば少年を見直したつもりだったが、やはりそんな言葉を聞くと彼は想像以上に頼りになるようだとロイはにやりと笑う。
「んじゃ、とりあえず紋章セットしてみるか」
「医者でなく?」
「ここまできたら、アピールしようぜ。頼りにしてるからな、王子様」
 俺の首守ってくれよと言われて少年は勿論だ、と笑って立ち上がった。
「せーので、開けるぞ」
「うん」
「せーの!」
 二人でドアノブをつかみ、掛け声と同時に開く。リオンが卒倒するだろうな、と思えばそこに居たのはカイルとミアキスだったのにロイは肩を撫で下ろした。
「お、王子?」
「うん」
 ぽかんと口を開いたミアキスが少年に声をかける。少年はにこりと微笑む、が。
「きゃああああああー!」
 キィンとした女性特有の甲高い声がホールいっぱいに響いた。一斉に視線が集まるのを感じる。
 と、カイルが笑いながらロイと少年の肩を抱きしめた。
「男前になりましたよ!王子!」
「ありがとう」
 ぎゅうーと抱きしめられ、全身が痛む。ついでにざわざわと人が集合し、その中に王子!とリオンの声がしたのにロイは意識が遠ざかるのを感じた。
 そしてブラックアウト。
作品名:王子とロイ 作家名:なつ