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太陽の髪の人 2

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机に肩肘をついて、むすっとした顔の男がいる。むすっというか、ぶすうぅぅというか、端整で美しい顔を拗ねた子供のそれに変えて黙っている。
 男の親友はそれを見て、ご機嫌いかがと、彼には珍しい軽口をきいた。男は一言、悪いと言う。
「どうすればいい、カタギリ。恋をしたのだ」
 臆面もなく、相変わらず突拍子もないことを言う男に、ビリーは吹き出す。だが、事実、彼はソレスタルビーイングのガンダムに惚れ込んでいる。今更それが増えたとしても疑問は感じない。
「今度のはどんな感じだい、グラハム」
「黄金の眼だ」
「それは特殊だね。機体の性能に直接的な関係はあるのかな」
 グラハムは一瞬不思議そうな顔になり、あるかもしれないと言う。そもまま、しばらくグラハムの話す機体の特徴を聞き続ける。モビルスーツを人間のように言うのは相変わらずで、苦笑を禁じえない。だが、それも今更だ。
 その機体を賞賛するのは、腕の立つものなら当たり前の事だ。だがそれはフラッグを一番にしたいと思っているビリーとしては負けられない。そのフラッグのパイロットであるグラハムが言うのは嫉妬すら覚える。
「彼女は最高だよ」
「……え?」
 聞き間違いかと思う。いくらなんでもモビルスーツに性別はないだろう。あったらグラハムは結婚しかねない。そう納得するも、グラハムはすぐにまた彼女といった。しかもパイロットとしての腕も確かだ、と。
 何かおかしい。明らかに何かおかしい。ビリーは首を傾げた。
「……ねぇ、グラハム。何のことを言ってるんだい?」
「ピーリス少尉だが?」
「少尉のティエレンかい」
「はは、君も無茶を言うな。今の段ではいくら新型でもティエレンに魅力は感じんよ」
 それは一般的な恋愛感情からの発言なのか、ガンダム以上の魅力を感じないということなのか、おおいに突っ込みたくなる。それ以前に魅力うんぬんの話ではないだろうと思うが、そのことには敢えて触れない。良くも悪くも、親友は空気を読むのに長けていた。
「つまり、……ピーリス少尉か……」
「ああ」
 相手が人間だとして改めてグラハムの恋を反芻する。それでもまた相手が悪いとしかめっ面になった。厄介なんてものはとっくに通り過ぎている。
 なんと言っても人革連の椿だ。周りの男性パイロットたちが黙っていないだろう。事実、グラハムがソーマに会いに行ったところ周囲から殺気の篭った目で見つめられたと言う。さらに言えば。
「彼女、超人機関だろう?」
「……ああ」
 グラハムが憎々しげな顔になる。コロニーという死角を利用して行われていた人体実験。もともとキリスト教の根強かった土地柄も相まって、ユニオン内での反響は大きかった。おおっぴらに詰ることこそしなかったが、我慢強いことでグラハムを感心させているビリーもその例に漏れない。
 そしてその機関は、その情報を独自に掴んだソレスタルビーイングによって破壊された。数千近い子供たちが犠牲になったのは間違いない。公然とそれをやってのける辺り、彼らの中にもキリスト教徒がいたのだろうか。それにしたって非道だが。
 そうなると、唯一の成功例として生き延びたソーマを、人革連が手放すはずがない。グラハムが本当に女性としての少尉を思っているのだとしても、人革連の目にはユニオンが戦力を奪っていると映る。グラハムが漏らした言葉が苦いのも、それが判っているからだろう。
 ため息を吐く代わりに、一応諦めるようにと視線を送る。即座に反論が帰ってくると思っていたが、グラハムはなかなか答えない。
 いぶかしんだとき、ぽつりと好きなのだから仕方ないと言われ、唖然となる。これは本気だ。だとすれは、それは全くもって。
「どうしようもないね……」
「……どうしようもないのさ」
 そう言ってまた拗ねる。金色の前髪を弄り始めてしまった。すっかり幼くなったグラハムの様子を見て、口元に笑みが浮かぶ。可愛く見えるのだから不思議だ。
 この手の問題に対してビリーは何も言えない。自身が思い人と相容れない状態なので、言いにくいのだ。そのまま柔和な笑みを浮かべながら、つい嘆息する。本気になってしまっている以上、何を言ったところでグラハムが聞き入れるはずがない。だったら、残るのは一つだ。
 軽く嘆息して、コーヒーでも飲めるだろうかと時計を確認した。





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作品名:太陽の髪の人 2 作家名:十色神矢