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【君と紙ヒコーキと。】好きになったらもう手遅れ【りゅー→葵】

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好きに、なってしまったのだということに、
 気づいたら、もう、遅かった。



「――あんた、何でここに居るのよ」
 じとり、と音のしそうな眼で睨まれて、俺は彼女に苦笑を返す。それはいつものやり取りで、俺ももうその対応には慣れた。最初こそ露骨な嫌がらせみたいな口調や態度に腹が立ったりもしていたものだけれど、今は、そんなこともない。
 俺は誰の席かも分からない場所を陣取ったままで、放課後、一人黒板に書かれた数式を消している葵さんに軽く手を振った。
「まーまー。細かいことは良いじゃないっスか。てか、鈴さんと圭さんが二人でどっか行っちゃったんで、暇なんスよ」
 へらりと笑う俺に一瞥くれてから、葵さんは黒板に向き直る。
「……あんた馬鹿なんだから、暇なら勉強でもしてなさいよ」
「相変わらず、きついっスねぇ……」
 可愛げないっスよ、と肩を竦めるけれど、葵さんは何の反応も返してこない。
 馬鹿は嫌いだ、と言っていたけれど、俺はそこまで嫌われるような事をしただろうか。それとも本当に、頭悪いだけでここまで嫌われているってことなのだろうか。
 ……だとしたら、少し、切ない。
「……んー。ねぇ、葵さん」
「何よ」
 名前を呼んでみても、振り向く事さえしてくれない。俺は自分の鞄の中から、授業中に折っておいた一つの紙ヒコーキを取り出して、それを開いた。それから筆箱の中からボールペンを出し、紙の上にさらりと走らせる。書く内容はもう決まっていたから、すぐに書けた。
 それを改めて紙ヒコーキの形に折りながら、俺はさりげなく葵さんに問いかけてみた。
「もし、俺が頭良くなったら、ちょっとは相手してくれます?」
 その問いかけには、葵さんは一瞬、動きを止めて。
「――さぁね」
 そんなの分かんないわ、だってそんなこと、一生ないでしょうし。なんて、葵さんは黒板消しをクリーナーにかけながら言った。
 俺はその華奢な背中に照準を合わせ、紙ヒコーキを――飛ばす。
 すこん、と軽い音がして、見事に紙ヒコーキは彼女の腰の辺りに命中した。
「……」
 葵さんは黒板消しをクリーナーにかけ終えると、以前のように、それをさらりと学校指定のサンダルで踏もうとして――けれど、途中で足を引いて、そっとその紙ヒコーキを手に取った。
「何よ……またしょーもないことでも書いてあるの?」
 黒板消しを置いて、葵さんは呆れ顔のままでその紙ヒコーキを開く。
「……」
 一拍置いて、その表情に、じわり、と、驚きが滲んだ。
「……ど、スかね」
 どきどき、と、心臓の音が、次第に、大きさを、速さを、増してゆく。
 葵さんは直立不動のまま動かない。視線は開かれた紙ヒコーキに縫いとめられたままで、動かない。
 動けない、だろうか。
「葵さん」
 名前を呼べば、彼女はびくり、と肩を揺らした。
 途端、顔が真っ赤に染まる。あ、可愛い、と思った瞬間には、彼女は手に持った紙ヒコーキだったものをぐしゃぐしゃに丸めて、こっちに投げ返してきた。それは見事に俺の額にヒットする。
「いたっ!」
「っ――何、言ってんのよ、馬鹿!」
葵さんはそう叫ぶと、自分の席らしい場所から鞄を引っ手繰って、慌てて教室から出ていった。俺はその後ろ姿を追う事もせず、ただ投げ返された紙を手に溜息を吐いた。
 かさり、とそれはむなしく掌の中で音を立てるばかり。それを開けば、中には自分の字で、確かにこんなことが書いてあった。

――圭さんじゃなくて、俺を、好きになってくれませんか?

『私の中でも浦木くんトクベツになっちゃったみたい』

 圭さんじゃ、なくて。
「(俺を、見て、)」
 俺にだけ、あの笑顔を、向けて欲しいなんて。そんな傲慢な事を思うようになったのは一体いつからだったのだろう。
 散々冷たくされておいて、こんな感情を持つなんて俺も対外Mなのかも知れないと思うけれど、感情ばかりは、どうしようもないのだ。
「(好きになったんだ、もう、遅い)」
 諦める事も、その感情を、無かった事にするのも。
 何もかもが遅い。きっと、彼女の口からあんな言葉を聞いてから好きになったことさえも、手遅れ、だったのだろう。
「――でも、全然脈ナシってわけでも、なさそうっス、ね」
 あの、笑顔を、可愛いと、思ってしまったのだ。
 可愛げのない口調さえも、可愛いと、感じてしまったのだ。
 愛しいと、思ってしまったから。

「――覚悟、しといてくださいね、葵さん」
 俺、本気ですから。
 窓の外に目をやれば、慌てて校門を出ていく見慣れた後姿が見えた。



(好きになったらもう手遅れ。)