熱さに溺れる
けれど、今の自分達は暑いというよりも熱いと言った方が的確だろうなと霞がかった思考の中で考える。
自分に覆い被さる彼の額から汗が伝う。そして、そのまま彼が流した汗が自分の頬に落ちてきた。
夏でも涼しい顔をしてコートを着ている彼が汗を流すのを見るのはこれで何度目だろう。もう片手では足りないくらいだ。
初めて見たのはやはり今日みたいな茹だるような暑さの中だった。あの日からあまり日は経っていないのに、もう既に片手で足りないんだなと思ったら思わず笑みが溢れた。
「…何考えてるの?」
「……いえ、ただ暑いなと思って…」
あなたの事を考えていたとはとても言えず、その前に考えていた事を口にする。
すると、彼は興味深そうに笑った。恐らく今言った事は真実じゃないと彼にはばれている。この全てを見透かしたかのような笑みがその証拠だろう。
けれど、彼がそれに関して追求する事はなかった。
「暑い? 熱いの間違いじゃない?」
文字で会話している訳ではないのに、彼の言う『あつい』がどっちの『あつい』なのかきちんと伝わってくる。
それから彼も同じ事を思っていたらしい。それが少し嬉しいと思った。
恐らくそれは表情にも出ていたのだろう。
そんな自分に彼が何か言いたそうな顔を見せたと思った次の瞬間、彼から与えられた目の眩むような快楽に思わず目の前の体に縋り付いてその背に爪を立てる。
自分の口から上がる声にもいい加減慣れつつあるが、ここは彼の住居ではなく自分の住むボロアパートだ。出来るなら声を出したくなくて、口元を引き締めれば口付けが落ちてくる。
口内に入り込んできた彼の舌が熱かった。
それとも、その舌に絡め取られている自身の舌が熱いのか。
それすらももう解らない。
ただ、やっぱり熱いなぁとそれだけを思った。