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サバイバーズ・ギルト

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その日、僕は木ノ葉情報部に用があり広い建物の廊下を歩いていた。
目的の場所に向かっていたつもりがどうやら迷ってしまったらしい。
誰か見かけたら案内でもしてもらうのだが、あいにく夜ということもあり人影すら見つからず辺りは不気味なほど静かだった。
薄暗い電灯が陰気に足元を照らし、こころなしか歩幅が自然と大きくなる。

尋問部と書かれた扉の前を通り過ぎようとした時だった、微かに中から声が聞こえた。
止せばいいのに、そっと扉に近づくと耳を寄せ中の様子を窺う。
話し声というよりは口を何かに塞がれたまま声を出しているといった感じだ。
その時僕は早く誰かに会って目的の場所を聞かないと、という気持ちで少し焦っていたのかもしれない。
ノックをするのも忘れてドアノブに手をかけると鍵は掛かっておらず、すんなりと扉は開いた。

その光景を目にした時、あまりの驚きに僕の思考と体はその場でフリーズした。
目の前の現実と頭の中の人物がリンクしない。
別人だと言ってほしい。
早くこの場から立ち去らないと、それが最優先なのに何故か僕は熟視していた。

部屋の中にいた2人は両方とも男で僕のよく知る人物だった。
白銀の髪が薄暗い電灯の下でもはっきりと目立ち、目を閉じてキスしているのは、
はたけカカシ先輩。
そしてその相手は、威圧感ある独特の風貌が拷問部屋にしっくりくる
森乃イビキ隊長だ。

カカシ先輩の爪先がイビキ隊長の首後ろにくい込んでいる。
僕は無意識に左胸に手をあてた。
ドクドクと流れる血の音がすぐ耳元で聞こえるように、心臓の鼓動が異常な程に高鳴っている。
すると、ふいに先輩の片目がゆっくりと開きイビキ隊長の肩越しに目が合った。
たっぷりと5秒間。
慌てる様子もなく、邪険な態度をとるわけでもない。
少し赤い唇に人差し指をあてると、アイコンタクトをしながら緩く微笑んだ。

途端に、貧血でもないのにグラグラと足元が揺れ目眩がする。
こんなことって.......
あのカカシ先輩とイビキ隊長が?!
混乱しすぎて体の動かし方を忘れてしまったように足が縺れた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になり床に後頭部を無様に打ち付けて僕は失神した。

目を開けると僕は冷たい床に寝そべったままで、体を起こそうと頭を動かした時、心配そうに見下ろすカカシ先輩がすぐ横にいた。
「大丈夫か?」
「はい、なんとか」と返事し、ぎこちない笑顔を向ける。
「あんな濃い場面見せられたら気も遠くなるか」
ははっと自傷気味に笑う先輩に居たたまれなくなり、痛む後頭部を押さえながら立ち上がる。
開いたままの尋問部の中をチラリと見たがイビキ隊長の姿はどこにもなかった。
「あの....」イビキ隊長は?と聞こうとしたが、野暮なことだと口を噤(つぐ)む。
そんな僕の心境を察したのか、カカシ先輩はゆっくりと立ち上がると目線を僕と合わせないまま口を開いた。
「お前ここに何しにきたの?」
「これを検死室まで運ぶように頼まれたんです」
火影様からの巻物を見せると、「検死室ね....」独り言のように呟き先輩は歩きだした。



スタスタと前を歩く猫背の先輩の後を追いかけるようについて行く。
シンとしたどこまでも続きそうな廊下を歩きながら、さっき見た強烈な映像が頭の中で断続的に再生される。
無言のまま歩き続ける先輩の背中を見つめながら、僕も貝のように押し黙っていた。
まだズキズキと痛む後頭部に手をあてる。この痛みがなければ、これは夢だと錯覚したい気分だ。
そんな事を考えてると、突然ピタリと止まる先輩の背中に危うくぶつかりそうになった。
先輩が、"検死室"と書かれた扉をノックすると遅めの時間帯にもかかわらず中から人が顔を出した。
巻物を渡し火影様からの伝言をつたえていると、「じゃ、オレはこれで」と先輩は一言いい、薄暗い廊下に吸い込まれるように消えてしまった。

翌日、里内の甘味茶屋でアンコとお茶をすすっているカカシ先輩を見かけた。
案内してもらったお礼を言うべきか、否、僕に会うのは気まずいのではと色々と考えていると、アンコが先輩に何か言いながら席を立った。
迷惑そうな表情をしている先輩を尻目に団子を頬張りながら行ってしまう。
今だと意を決しカカシ先輩に近づいた。
「ここ、座ってもいいですか」
この機会を逃したら、多分ますます声をかけにくくなると半ば強引にお願いする。
昨日の今日ということで僕の姿に困惑する表情を浮かべると思ったが、相変わらずの緩い笑顔で「どうぞ」と向かいの椅子に視線を寄越した。
温かな茶の温度に満足するように目を細めながら茶をすすっている先輩が自然と視界に入る。
茶碗に口を寄せる淡い赤い唇が昨夜の光景を連想させ、端から見れば至って普通の風景のはずなのに僕の不埒な部分が芽を出しそうになった。
いつの間にかじっと見つめていたら、「ああ、お茶飲みたいの」と勘違いした先輩は僕の分も注文してくれた。

「昨日は、ありがとうございました」
慎重に言葉を選んだつもりなのに胸がざわつく。やっぱり、言うべきじゃなかったかもしれない。
数秒間をあけて先輩が答える。
「......こっちこそ悪かったな、見苦しい所見せて」
「すみません」
「なんでお前が謝るんだよ」
「勝手に開けたのは僕ですし」
「んー。ま、お互い様ってことで」
ピラリと白い伝票が目の前に差し出される。
「じゃあ、これヨロシク」
「え?ちょっと先輩!!」
慌てて引き止めようとすると、「見・物・料」とイタズラに微笑み先輩は立ち去った。
すっかりぬるくなったお茶を飲みながら何気なく伝票に目をおとすと、そこにはアンコの食べた団子代まできっちりと金額が記載されていてた。



再びカカシ先輩に会ったのは、木の葉病院のベッドの上で先輩は愛読書を読んでいた。
「またチャクラ切れですか」
本から顔をあげて、病室に入ってきた僕の方を見ると先輩は少しだけ気恥ずかしそうに笑った。
「またってなんだよ」
ベッドの横の丸椅子に腰掛ける。
「先輩はいつだって他を庇いすぎます」
「仲間は死なせたくないんだよ」
「確かにそうですけど、あまり無茶はしないで下さい」
「わかったから、そんな通夜みたいな顔しなーいの」
ニコリと向けられた笑顔が無性に寂しかった。
この人はきっと想像を絶する苦痛の中でこうやって一人耐えてきたんだ。
そして、そんな素振りを微塵も見せないように仲間の前ではなんでもないように笑顔を作ってみせる。
その強さが羨ましくもあり、疎ましくもあった。
「ちょっといいですか」
「んっ?」
僕は椅子から立ち上がると先輩を包み込むように抱きしめた。
微かに香る洗髪した匂いと、温かい体温が気持ち良くて目を閉じる。
いきなりすぎる包容に突き返されると思ったが、先輩はじっとしていた。
首すじに息が触れ、子供をあやすように囁かれる。
「やさしいな。テンゾウは」
心地良い低音が耳に響き、僕らはただお互いの体温を肌で感じていた。
暫くするとスゥスゥと寝息が聞こえてきて、ゆっくり体を離すと先輩は寝てしまっていた。
静かに布団をかけ、寝顔を見ているとじんわり胸の奥が熱くなり幸福感に包まれる。
きっと、人を好きなるってこうゆう他愛もない事の積み重ねなんだろうなと感じた。

作品名:サバイバーズ・ギルト 作家名:ユラン