無線ジャック
「ああ。すぐに本部に向かおう。幸い、本部からそれほど距離は離れていないしな」
「走るぞ!」
「ああ。……風馬、お前足の怪我は大丈夫なのか?」
「もう随分前の話じゃないか、全然問題ないよ」
「そうか、なら、いい」
「もしかしてお前が歩きたかったのか? 自分の運動不足を俺のせいにするなよ?」
「人の気遣いを茶化さないでくれ」
「ははっ。……おっ、無線?」
「? 俺には入ってないぞ?」
「治安維持局から……? はい、もしもし」
「風馬」
「ジャック……!? どうし……いや。……まずは、WRGP優勝おめでとう」
「見ていたのか?」
「ああ。Dホイール留めて、同僚と一緒に見てたぜ。怪我は大丈夫か?」
「……情けないところを見せてしまったな」
「情けないだなんて思ってない。ジャックの決闘が俺は好きだし、ジャックたちが……ジャックが優勝したのにそんなに落ち込む必要ないだろ」
「オレは落ち込んでなど!」
「だったらそんなに不安そうな声、出さないでくれ」
「……風馬」
「なんだ」
「空のアレは、見えるか」
「……ああ。12時間後には落ちて来るらしいな」
「知っているのか」
「牛尾からさっき無線が入った。これからセキュリティ本部には向かうが……正直、俺たちにやれることは市民の誘導ぐらいだろう」
「お前は、逃げないのか」
「俺がセキュリティになってから、一番の大仕事だぞ? それに……ジャックも逃げないんだろ?」
「……!」
「シグナーってのは、本当に大変だな。……止めてくれるんだろ? ジャックたちが。あれを」
「……ああ、当然だ! 誰が落下などさせるものか! オレたちが必ず、ネオドミノシティを守ってみせる」
「だから、待ってるよ。ネオドミノシティで。ジャックたちが帰ってくるのを」
「ああ……しっかり待っていろ」
「ジャックも絶対帰って来いよな。お前の好きなカップラーメン作って待っておくから」
「麺が延びる。オレが帰ってからにしろ」
「はいはい。……っと、そろそろセキュリティ本部に着く。お前が無線使ってること知られたら、狭霧課長にあとでこっぴどく怒られるぞ」
「……御影には黙っておいてくれ」
「ん、分かった。俺も怒られるのはイヤだからなぁ」
「……風馬」
「……ジャック。またな」
「……ああ」
「無線、誰からだったんだ?」
「……俺の大切な人」
「……その人のところへ行ってもいいんだぞ?」
「いや。本部を目の前にして逃げるなんてできるわけないだろ?」
「悲しむぞ、相手」
「悲しまないよ。あいつは強い。それに……あいつのために、俺はこの街で待つんだ。あいつが救うこの街を、守る手助けが少しでも俺に出来るなんて、こんなに嬉しいことはないじゃないか」