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スタディ・タイム

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「鬼道、」
「どれだ?」
「問4がさっぱりだ」
「ああ、これは消去法で考えていけば良い」
「う〜ん……」
「そう難しく考えるほどでも無いだろう?」
「いや、俺にとっては難しい……むしろ、他人の気持ちなんてそう簡単に分かるものじゃないだろう?」
 だから国語は苦手なんだ――とついつい愚痴を零してしまう。
 同じような理由で道徳も苦手意識があるが、こっちは取り敢えず受験には関係ないから考えないことにしている。
 ちらりと斜め横に開いてある鬼道の問題集は、数学。その横に並べられた大学ノートには、几帳面な文字がびっしりと詰まっていた。
「まあ、お前の言い分も分かるが――それでもこれは選択問題だから、よくよく読めば分かるはずだぞ」
「俺にはaもbも合っているように見える」
「ああ……だが、よく読んでみろ」
「?」
「本文中に書かれていることと、明らかに違う箇所があるだろ?」
「……あ、」
 よくよく見てみれば、確かに。
 選択肢aの文章は、主人公たちのいる場所が違っている。
 主人公と恋人が別れ話をしている場所は『アパート』ではなく『公園のベンチ』の筈だ。
「――うっわ〜、やられた……」
「面白いくらいに引っかかったな」
「……というか、むしろもうコレは引っ掛けクイズみたいなものじゃないか?」
「まあな」
「……納得いかない……」
「そんなものだ」
「……鬼道は国語得意だよな」
 むしろ、鬼道の場合は結構な頻度でオール100点という点数を叩き出すから、苦手な科目なんて無いのかもしれないと思う。
 こうして勉強を見てもらっている身としては言える立場じゃないのかもしれないが、随分と人間の頭の出来というやつは不公平なものだ。ちょっと文句のひとつやふたつも言ってやりたくなる。
「だが、風丸は数学は得意だろう」
「得意というか――少なくとも国語よりはいいけど」
 それでも、点数は鬼道に及ばない。
 というか、どの教科でも勝てたためしがないわけで……。
(いや、まあ……鬼道の方がずっと勉強しているからなんだろうけどさ……)
 それにしても、だ。
(俺たち以上にサッカーの練習に時間を使って、学校行事の運営を手伝って……一体いつ寝てるんだ?こいつは……)
 
 中3になって、鬼道が帝国に戻ってからも、俺たちは偶に連絡を取り合っている。
 何で?と訊かれても上手く説明できないが、多分意外にもお互いの波長が合ったからだと思う。
 今年もまた日本選抜メンバーに選ばれて一緒に過ごす機会があったから、とか。そういうことも理由のひとつだろう。
 でも、多分やっぱりそれだけじゃない。
 こうしてお互いの家を行き来して受験勉強に取り組むのは、ただ偶々一緒に居る機会があったから――というだけじゃない、と思っている。
(むしろ、そう思いたがってる節があるんだよなぁ……何でか)
 自分でもその辺はよく分からない。
 
 そんなことを考えながら、再度お互いの勉強を再開しようとしたところで、携帯のバイブ音が響く(この音は結構よく響くのだ)。
「鬼道のか?」
「ああ、すまない」
「いいから出ろって。電話みたいだし」
「ああ――――……?」
「?」
 着信画面を確認した鬼道は、何故か首を傾げている。
(そんなに意外なヤツからの電話だったのか?)
 一体誰からの電話なのだろう?
「――円堂か、どうした?」
(円堂?)
「っ……おい、叫ぶな!却ってよく聞こえないぞ……っ」
「?」
「――それは俺のせいじゃないだろうが。……ああ、今、か……?」
「どうした?」
『え、今鬼道、風丸ん家にいるの?!』
 相当馬鹿でかい声で叫んだようで、咄嗟に耳から遠ざけた鬼道の携帯から傍にいた俺にも円堂の声が聞こえた。
 鬼道は呆れたように溜め息を吐いて、俺に自分の携帯を渡してくる。それに苦笑しつつ、ほんの少しだけスピーカーに耳を近づけた。
「ああ、鬼道は今俺の家に来てるけど、それがどうかしたのか?」
『ああーっ!だったら風丸の家に行けばよかったのかぁ……!』
「円堂?」
『俺、今鬼道ん家の前に居るんだけど……今度のテストで赤点とったら卒業させないって先生に言われちゃったんだよ!』
「卒業させないって――そりゃ、すごいな……」
『だから俺、鬼道にわかんないトコ訊こうと思って電話したんだけど繋がらなくて――だったら直接訊きに行こうと思って、』
「お前な……」
『なあ、だったら今から俺も風丸ん家行っても良いだろ?なあ、良いよな!?』
「――と、言ってるんだが?」
「お前の家だからな。任せる」
「了解――円堂」
『サンキュ!じゃあ、すぐ行くから!!』
 ――――ブツン。
「……まだ一言も『いい』とは言ってないんだけどな……」
「まあ、円堂だからな」
「それで納得するっていうのもどうかとは思うけど――」
「諦めが肝心だと、お前がそう言ったんだろう?」
「そうだったな」
 何となくお互い顔を見合わせると、どちらからともなく苦笑して。
 それがまた、よく分からない可笑しさをつれてくる。
(さて、円堂が来たら絶対にそっちにかかりきりだろうからな……)
 ついでに、自分も教わる側から教える側になるんだろう。
(今の内に出来るだけ進めておくか。――せめて国語だけでも)
 勉強の再開も、何となく同時。
 そんなささやかなことに、何故だか無性に笑いたくなった。
 
 《終わり》
頑張っています
作品名:スタディ・タイム 作家名:川谷圭