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【APH】詰め放題パックそのいち【ごった煮】

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01.例えば君がいなくなったら



「(たとえば)」
 ドイツが居なくなったら、俺はどうするんだろう、と、最近度々考える。
 ドイツと俺がこいびとという関係になって、もう随分な時が経った。ひとの生きる年月で数えるのならば、とっくにどちらかの命が終りをを迎えているような、そんな、年月。
「(俺はドイツの隣に居るのが当たり前で、ドイツは俺の隣に居るのが当たり前で)」
 ぱらり、とページを捲る音が隣から聞こえてきて、俺は抱き心地の良いクッションを抱え直して、黙々と分厚い本のページを手繰り続けるドイツを横目で見た。俺なんかが読んでもきっと、内容なんて一ミリも頭に入ってこないような難しい内容なのだろう、ワインレッドの表紙の本は、最近ドイツが良く読んでいる本だ。
「(何の本なのかなぁ……)」
 訊いてみたい、けれど、ドイツの読書の邪魔をするのは悪い。俺がそんな事を思いながらクッションを顎でもふもふと叩いていると、不意に、ドイツの腕がこちらに伸びてきた。
「ヴェ」
「どうした、そんなに挙動不審になって」
 ドイツは俺に目を向けないままで、そう問うてくる。俺は頭に載せられたドイツの掌に自分の掌を重ねながら、んー、と小さく唸った。
「ドイツの読んでる本、何なのかなーと思って」
 さりげなく口にしてみれば、ドイツはようやくこっちを向いて、その本を一度閉じた。
「これか? これは……環境問題についての本だ」
 環境問題。ある意味とてもドイツらしい選択だ。そして、やっぱり俺には到底読めそうもない内容の本だ。多分、文字はびっしり詰まっているだろうし、俺なんかが目にしたら10ページにも達しないうちにギブアップしてしまうだろう。勿論環境問題に関心が無い訳ではない――どころかちゃんと考えなくてはならない問題として捉えてはいるけれど、元々活字の苦手な俺がそんな難しい内容の本を読める訳が無い。
 そんな俺の思考が表情に出ていたのか、ドイツは苦笑して、まぁお前には無理だろうな、なんて、失礼なことをさらりと言う。
「この本にはな……アクア・アルタのことも書いてあるんだ」
「え、」
 アクア・アルタ。それは俺の家で起こる、一種の自然現象だ。ここ最近は地球温暖化も手伝ってか、その頻度や潮の高さも増してきていて、被害は深刻になってきている。その分対応も早くなってきてはいるけれど、家屋への浸水などでその度に大変な騒ぎになる。
 きれいだ、と言われることもある風景だけれど、やっぱり俺としては少し複雑だ。そんな俺の心境が伝染したかのように、ドイツもちょっぴり、不安そうな表情になる。
「お前の家でアクア・アルタが起こる度に、俺は不安になるんだ」
「不安? ……何に? 別に、アクア・アルタはドイツには直接関係ないじゃん」
「あぁ、実害と言う意味ではな。だが――」
 ドイツはそこまで言って本をテーブルに置くと、俺の身体に腕を絡めて、優しく抱き締めてきてくれた。自然とドイツの厚い胸板に顔を埋めることになる。すぅ、と息を吸えば、ドイツのにおいがした。
「お前が、居なくなってしまうんじゃないかと」
 そう呟くドイツの表情は、見えない。俺は静かに頷きながら、続く言葉を待った。
「いつか、イタリアという国が沈んで――お前が、国と共に、海に沈んでしまうのではないかと……怖く、なるんだ」
 俺を抱くドイツの力が、強く、なる。
「(あぁ、ドイツも不安なんだ)」
 俺が、ドイツが居なくなってしまったらどうしよう、と思うのと同じように、ドイツもまた、俺が消えてしまったらどうしよう、と思ってくれているんだ。
 あぁ、どうしよう、どうしよう。不謹慎かも知れないけれど、凄く嬉しい。
 ふにゃり、とだらしなく頬が緩むのを感じた。
「……だいじょーぶだよー」
 俺はドイツを安心させるように、わざと明るい声で言う。ドイツが俺を抱く力が少し弱くなって、俺は顔を上げ、ドイツと目を合わせた。
 不安げな、湖水色の瞳。俺の好きないろ。
「ドイツが居る限り、俺は、絶対消えたりしないよ」
 例え海水で国土が溺れてしまおうと、例え国土が焼け焦げてしまおうと。
 俺は、ドイツが――ううん、ルートヴィッヒが居る限り、絶対にこの世界から居なくなるなんてことは無い。神様に誓って。
 残される痛みは、よく、知っているから。
 大切な人を、ひとりで残すなんてこと、したくないんだ。
「俺も、ドイツが消えちゃったらどうしよう、って考えてた。けど、考えないことにした! だってさ、考えても意味ないんだもん。そんなこと、絶対に無いんだから」
 確信なんてどこにもないけれど、俺は、確信を持ってそう言った。そうすれば、ドイツは数度瞬きをして、表情を和ませる。
「……不思議だな。どこにも確証なんて無いのに、お前がそう言ってくれるだけで、本当にそうな気がする」
「気がするんじゃないよ! 絶対! 約束!」
 お前が居る限り俺は居るから、俺が居る限りお前は消えないで。
 どうかどうか。
「(例えば君が居なくなったらなんて、)」
 俺はもしもの話でも、考えたくはないんだ。