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【APH】詰め放題パックそのいち【ごった煮】

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03.平気じゃないのはたぶん僕



「……中国さん、大丈夫ですか?」
「んー? だいじょーぶあるよー。ほらほら、日本も、もっと呑むよろしー」
「……大丈夫じゃないですよね。酔っ払ってますよね」
 はぁ、と溜息を吐いて見せるも、すっかり出来あがった中国さんはカラカラと機嫌よさげに笑うばかりで執り合ってくれない。
 私は中国さんの手から杏酒の入った硝子のコップを取り上げて、幼い子供に言い聞かせるように言った。
「中国さん。あまり呑むと明日に響きます、今日はここまでにしておきましょう」
 すると中国さんは、ぷぅ、とそれこそ幼い子供のように頬を膨らませた。
「返すある! 我はまだまだ呑めるあるよーっ!」
 覚束ない様子で私の持っているコップに手を伸ばそうとするけれど、ギリギリのところで届かない。
「ですから、駄目です。明日は大事な会議があるんですよ?」
 そう。明日は我が国で開かれる重要な国際会議を控えている。本来ならばビジネスホテルに泊まる予定の他国の中で、中国さんだけは、いつも例外。私の家に宿泊する事が通例となっている。
 ……それは、私と中国さんがこいびとという仲になってからのことだ。思えば、もう随分と長いこと、こいびとという関係を続けている気がする。
 コトリ、と中国さんから離れた場所にコップを置けば、中国さんはむぅと眉を寄せる。
「にーほーんー!」
 しかし、ここまで酔ってしまうともう、恋人とか何とかいう雰囲気は皆無だ。
「まーだー飲むあるーっ」
 じたばたと暴れる中国さんは、ついに私の膝の上にまで乗り上げてくる。私の身体が揺れて、持っていた自分のコップの中身も波を立てた。
「あ、ちょっ……危ないです、零れます、中国さん」
「……もうそれで良いから寄越すよろし!」
 中国さんはついに、遠ざけられた杏酒を諦めて私のグラスを狙い始めた。ちなみに中身は日本酒だ。中国さんはあまり日本酒の味を好まないのだけれど、今となってはそんな事は関係無いらしい。
 中国さんは私の膝の上に体重をかけて、必死になって手を伸ばしてきた。私もそれに対抗して何とか酒を死守しようとする。これ以上呑ませたら、明日二日酔いになることは明白だ。そんな状態で会議に出すとなると、わざわざ家に泊めている自分の責任になってしまうではないか。ただでさえ色々といざこざの多い会議なのに、これ以上悩みの種を増やしたくない。
「……中国さん、危ないですっ……」
 そう、言った矢先の事だった。
「あっ――」
「お?」
 中国さんが伸ばした指先が、僅かにコップの端に引っ掛かって――コップが手の中で、ひっくり返った。そうしてその中身は勿論、重力に従って落下して――
 ぱしゃり、
 小さな音を立てて、中国さんの顔に、かかった。
「……」
「……あー、ほら、言ったじゃないですか……って、」
 中国さんは暫くポカンとしていたけれど、事態を理解したのか、ぺろり、と赤い舌を出して自分の顔にかかった日本酒を舐めだした。
「え……あ……」
 中国さんは顎から滴る日本酒さえも逃すまいと指先で掬い、口に入れて味わった。掬いきれなかった分は私の着物や中国さんの衣服を濡らす。
 中国さんの顔は、酔いからか、赤く染まっていて――、
「ん……やっぱ杏酒の方が美味いあるねー…。まぁ良いある……って、どうしたあるか、日本?」
 名前を呼ばれて、我に返った。
 漂う酒の香り。月明かりに照らされた、中国さんの、濡れた、赤い顔。流れる髪はまるで女子のそれのように、綺麗で――
「中国、さん……っ」
「にほん?」
 気がつくと私は、中国さんを板張りの床の上に押し倒していた。中国さんはまだ事態が飲み込めていないのか、ぺろり、ともう一度自分の口元に舌を這わせた。それがとても煽情的で、私はつい抑えきれず、その唇を己の唇で塞いだ。
「んっ――」
 逃げようとする舌を、絡め取る。日本酒の味がする口吻けは、酷く熱く、それだけで私の方こそ酔ってしまいそうだった。
「中国さん――すみません、」
 謝る私は、ちゃんと、申し訳なさそうな顔をしていただろうか。
 あぁ、大丈夫じゃないのは、私の方だった。

 結局、中国さんは翌日、腰痛を抱えて会議に出席することになってしまった。……無論、私の所為で。