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【APH】詰め放題パックそのいち【ごった煮】

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05.ご褒美=君



「……プロイセンさん、そちらは終わりましたか?」
 ひょこり、と顔を覗かせた幼い風貌の少女に、俺はおう、と小さく返した。少し散らかり気味だった倉庫の中は、それでも元がきちんと整頓されていたお陰か、案外早く片付けを終える事が出来た。
 俺が倉庫から出て服に着いた埃を払っていると、リヒテンシュタインがありがとうございます、と丁寧なお辞儀をした。
「丁度、倉庫掃除をしようとしていたところでしたので……助かりました」
 リヒテンシュタインはそう言って微笑む。
 いつかのように、俺はスイスの家に掃除をしに来ていた。今日はスイスは不在らしく、リヒテンシュタインが応対してくれている。あいつと違って、リヒテンシュタインは纏う空気が柔らかくて、居心地が良い。勿論、スイスの妹として育てられているだけあってそれなりの警戒心はあるのだけれど、あいつよりはガードが緩い。
 ……勿論それは、俺とリヒテンシュタインの関係が手伝ってのことも、あるだろうけれど。
「でも、手伝うっつってもそんなに大した仕事じゃなかったな」
「そうでしたか? その倉庫はもう大分掃除していなかったのですが……」
「まぁお前ら兄妹のことだから、俺とは大分の長さが違うんだろうけどよ」
 肩を竦めて言うと、リヒテンシュタインはそうですか? と首を傾げる。それからくるりと振り返り、肩越しに俺を見てにっこりと微笑んだ。
「折角お手伝いをしてくれたのですし、お礼に、お茶をご馳走して差し上げます」


 俺は質素な作りの家の客間に上げられて、リヒテンシュタインはキッチンの方へと姿を消した。かちゃかちゃと軽い音が響いてくる。
 そう待たされることもなくリヒテンシュタインは軽い足音と共に姿を現した。両手でトレイを持つ仕草はどこか危なっかしい。
「どうぞ。搾りたての山羊のミルクです」
 リヒテンシュタインが差し出した大ぶりのマグカップの中には、白い液体。山羊のミルクか。飲んだこと無いな。興味深くてカップの中身を覗きこんでいる間に、リヒテンシュタインは茶請けらしいクッキーをテーブルの上に置く。
 リヒテンシュタインはテーブルをはさんで俺の目の前に腰かけると、自分用らしいピンク色のマグカップを両手で持って、ふぅ、と息を吐いた。
「今日は、本当にありがとうございました」
「ん? あぁ、良いって良いって」
 俺がマグカップから顔を上げて笑って見せれば、リヒテンシュタインも微笑み返す。最初の頃こそあまり表情の起伏が無いように思えたのだけれど、結構、柔らかな表情を見せる事が多いのだと気付いたのは最近の事。
 元々が端正で、どこか人形のような気配さえ感じさせるような顔をしているから、笑っていた方が可愛い、と思う。それこそ、こいつの見せる笑みは、花のような、という形容の似合うそれだ。
「……てーか、俺的には、ご褒美ってんなら別のものが欲しいな」
「あ……ミルクは、お気に召しませんでしたか?」
 失敗した、と表情を曇らせるリヒテンシュタインに俺はNeinと返す。
「違ぇよ。折角ご褒美が貰えるってんなら……お前が欲しい」
 そう言った途端に、リヒテンシュタインの顔が火を噴いたように真っ赤になった。面白い。
「――はい!?」
「だから、お前から、キス」
 してくんない? と唇に指を当てれば、リヒテンシュタインはパクパクと口を開閉させた。事態が飲み込めていないのか、ただ単に混乱しているのか。どちらにせよその反応はとても面白い。
 俺とリヒテンシュタインがこいびととして正式に付き合うようになってから、向こうからのキスを貰ったことが無い。折角の良い機会だ、と思って言ってみたのだが、恥ずかしがり屋のリヒテンシュタインには無茶な要求だっただろうか。
 リヒテンシュタインは暫くあーだのうーだの唸っていたのだが、やがてソファから立ち上がると、目を、閉じていて下さいまし、と恥ずかしげに呟いた。俺はそれにおとなしく従う。
 真っ暗になった視界。近づいてくる足音。体温。ふぅ、と、甘い吐息が近くに――

「――貴様。他人様の家に上がりこんで、何をしている……?」

 ジャコン、という音と同時、響いたのは明らかな怒気を孕んだ声。俺が反射的に目を開けば、目の前にまで迫っていたリヒテンシュタインの顔は俺ではなく部屋の入口に向けられていて。
「お、お兄様っ……!」
 慌てたような声に、俺も狼狽えて、そうして――このままではやばい、と、判断し、
「待てええええええ、貴様ああああああああああっ!!!!!!!」
 ダショーン! と俺が咄嗟に逃げた窓へと銃弾の放たれる音を聞きながら、俺は心の内で密かに溜息を吐いた。
 ……どうやら、今回は世界一甘いご褒美は、お預けらしい。