来春
暖かい風がふわりと髪を巻き上げる。
暑くもなく寒くもない、過ごしやすい天候。
足元には散った桜の花びらが、何もない地面を華やかに飾りたてていた。
「春と共に、貴方も訪れてきましたか。」
「偶然ある。」
我は振り向かずに返事を返す。
背後にいる声の主は、手に持っていただろうお盆を縁側に置いた。そして草履を履いてこちらにやって来た。
我は、ここに来てから、ほとんどこうやって桜を見上げていた。
「珍しいですね。桜、お好きでしたか?」
「自分でも驚きあるよ。なんだか、急に日本の桜をみたくなったある。」
「“私”ではなく“桜”ですか…やはり、貴方と春が一緒に私の所に訪れたのは、偶然なんかじゃ、ありませんね。」
「え?どういう事あるか?」
「さあ。どういう事なのでしょうね?」
「ケチある……」
桜は春風に吹かれながら宙を舞った。