野良の縁側
いつの間に、縁側の一番日当たりのよい場所がプロイセンの定位置になっていた。
気ままな野良のように、プロイセンは時折ふらりとやってきては何も残さず去っていく。風邪を引くからと強引に部屋に引っ張り込んで、次に二人分の夕飯を盆にのせて台所から出てきたときにはいなくなっていたことがあってから、もう何も言うまいと決めた。普段よりも豪勢な夕食は作っている最中にはあれだけおいしそうだったのに、一人きりで食べると砂を噛むように味気なかった。
濃いめに淹れたお茶とお歳暮のカステラを携えて南向きの和室に戻ると、プロイセンはちょうど日溜まりに丸くなっているところだった。かなり痩せたとはいえ大柄な男だのに、暖を逃さないように横になってぎゅっと小さくなるその姿はどうにもかわいい。そして、日本は自分の目に何重にもフィルターがかけられていることを重々承知している。
「プロイセンくん。おやつですよ」
言ってから、おもいきり孫をかわいがる祖父のようだと思ったが、プロイセンは一つ唸ったきり返事をしない。寝入り端だったのか、むずがる声は低くかすれていた。引き寄せられるように傍に寄って、肩に触れる。プロイセンは何の反応も返さない。
ふと思い立ってだいぶ伸びてきた襟足の辺りの銀色を指先で掻き撫ぜてやった。目を閉じたきりの横顔が気持ちよさそうに鼻を鳴らした。
「そうしてると、あなた、猫みたいですよ」
「…鳴いてやろうか」
器用に片目だけ開けて、プロイセンはにんまりした。どう返したものかと口に小さく笑みをたたえると、プロイセンはのろのろと起き上がった。そのしぐさがこれまた野良に似ている。プロイセンは日本に背を向けて一度大きく背伸びをすると、振り返って再び横になった。今度は、日本の膝の上にうつぶせるように。本当の猫のように頭を擦り付けてくる。どう鳴いてくれるのだろうか、なんてよこしまなことを考えながら、ついと指をプロイセンの顎の下に滑らせる。
気持ちよさそうに目を細めるしぐさなんて、猫そっくりだ。これだけでもいいものが見れた、と内心で顔を赤くしていたのだが、プロイセンはそれだけでは終わらなかった。日本になでさせる手はそのままに、首を小さくかしげて絶妙な角度で上目づかいを作ると、
「にゃあん」
とんでもない声だった。背筋を冷たい手が撫で下ろしたように一瞬で鳥肌が立った。女性相手なら絶対に腰を砕けさせるだろう、壮絶に官能的な鳴きまね。不覚にも顔が赤らんだ。
たまらずに小さく舌打ちして気ままにすり寄ってくる肩を掴んで引き倒すと、今までの甘ったれはどこへ行ったのか、心底楽しそうに自分を組み敷く男の醜態を見ている。
「茶が冷めるぞ爺」
「挑発したのはあなたですからね」
「フン……」
水を差すようなことを言っておきながら、顔を寄せた日本の背にプロイセンは当然のように腕を絡めたのだった。
【終】
爺さんと爺さんの恋人
わりとデフォルトでこの状態(であることを夢見ている)(…)