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中々落ちてこない美味しそうな実の話

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 ぐらぐらと、今にも落ちそうな熟れた実があって、時々それを眺めている。
 手を伸ばしてもいでもいいのだけれど、自然に落ちてこないかな、なんて思って見上げている。
 ぐらぐらと、今にも。







         中々落ちてこない美味しそうな実の話







酔っぱらっているトムさんは、たちが悪い。
スキンシップ過剰になる。
やたらと甘えてくる。
いつも頼りになる先輩だけど、酔うと、なんというか、かわいい。
かわいいって、なんだ。
相手は男で、先輩で、上司で、トムさんなのに。
でも思ってしまうんだから、しょうがない。

「静雄―、送って?」
「はいはい」
「静雄―おんぶ」
「はいはい」
「静雄―、吐く」
「はいは、ちょ、待ってトムさん!」
「うそー」
「・・・・・・」
「キレんなよ」
「呆れてるんです」
「静雄にアイソつかされたー」
「んなことねぇですよ。あーもう」

酒臭い息が首にかかる。
こっちはそう飲んでいないのに、酔ったようになる。
背中にかかる遠慮のない重みに、胸がざわざわとする。
嫌悪とはまったく違う、なのに振り落としたくなるような衝動。

「静雄?今んとこ、左」
「あ」

数歩戻って、角を曲がる。
というか。

「トムさん、自分で歩いてください」
「いやだ」

実はそれほど酔ってないんじゃねぇの、という疑問から提示してみると、はっきりした口調で拒否された。
ぎゅう、と首に回された腕に力が入って、鼓動が跳ね上がる。
生命の危機を感じたわけではない。

「っトムさん、そんな酒弱かったですか」
「んー。強いよ?」
「や、強くもないでしょう」
「静雄と酒飲むと、酔うんだよな」
「はあ」
「なんでだろうね」
「知りませんよ」

ため息が耳のそばで聞こえた。
くすぐったさに、肩をすくめると、わしゃわしゃと髪をかき回された。
大通りからひとつ外れると、行きかう人は途端に少なくなって、先ほどよりも声は聞き取りやすい。
ちょっと乱暴な仕草で掻き混ぜられた髪が、サングラスにかかって鬱陶しい。

「トムさん?」
「もうひと押しかなーと思っても、まだまだなんだよな」
「何の話ですか」
「中々落ちてこない美味しそうな実の話」
「えーと。わかりません」
「うん。そろそろ我慢の限界」
「え、吐きますか!?」

ちげーよ、とトムさんは言って、いややっぱり吐くのかな、と呟いた。
のんびりした声に、それほどの緊迫感はない。

「もうちょっとで家着くんで、辛抱してください」
「そだなー。振り落とされたらたまんねぇし」
「んなことするわけねぇでしょ。水飲みますか、そこ自販機あるし」
「お前さ。なんでそんな甲斐甲斐しいの」
「え?」
「水いらね」
「あ、はい」

自販機の前を通り過ぎる。
横目で確認したら、どっちにしろミネラルウォーターは売切れの赤ランプがついていた。
こういう時はスポーツドリンクでも良いのだったか。

「普通さ、吐きそうな奴背中乗せとかないよな。汚されたら嫌だし」
「・・・そう、っすかね?」
「お前の友達の、闇医者とか、ワゴンの奴とか、想像してみ」
「新羅?あいつなら引きずってくかな。放置してったらセルティに悪いし。門田の場合酔って吐くとかゆーイメージがないっすね。でもまずおんぶ自体あんましねぇっすよ、ちっさい子ならともかく」
「・・・ちっさい子」
「あ、トムさんのことじゃないっすよ!?」
「おお」

ちょっと声が低くなった背中の人に、慌てたように言葉をつなぐ。

「クルリとマイルとか、茜とか、まああの辺は向こうから跳びついてくるんだけど」
「お前の発言って、聞きようによってはすげぇ傲慢だなぁ」
「え、そうっすか?」
「なんでトムさんのことはおんぶしてくれんの。ちっさい子でもねぇのに。吐くかもしんないのに」
「吐くんなら下りた方がいいですよ。俺よりトムさんの方がダメージだと思います」
「・・・うん、まあ、そうね」

これではぐらかしてるんじゃないんだよなぁ、とトムさんが呟く。
何の事だかわからない。
もうひとつ角を曲がると、目的地が見える。
あと少しで、この重みから解放されるのは、なんだか寂しいように思えて、だからトムさんが、「泊まってけよ」と言ってくれて、ホッとしたのは仕方がない。「はい!」と答える声が多少うわずっていたのも。


***


 ぐらぐらと、今にも落ちそうに見えて、意外としぶとい実を見上げ続けるのには、もう首が疲れた。
 手に取って引き寄せて、枝からぷつりともぎ取ろう。
 なにしろ自覚のない相手のことだから、ここから「いただきます」までが、まだ長い。
 それを思うとため息が深くなるけれど、その過程もまた、きっと楽しいに違いない。