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Children Lost Lostness

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幼い頃、人が死ぬということがよくわからなかった。親に尋ねてみても、返ってくるのは曖昧で抽象的な答え。その人とずっと会えなくなること。ずっとってどれくらい?積み重ねてきた時間が少なすぎる僕には、想像がつかなかった。とても悲しいことだと皆が言うから、テレビドラマの俳優たちが容易に涙を流すから、とりあえず幼い自分の中で、死は「悲しい」ものだと定義された。


 それから少しあとに、小さな町で葬式があった。町中の人がその家に集まって、まるでちょっとしたお祭りでもあるようだと思った。
 通夜の日、家を出る前に、僕は母から言い聞かされていた。今日は静かにして、あちこち動き回らないでちゃんと座っていること。それから、「いつもよりも、もっと優しくするのよ」「元気づけてあげてね」。
何度も遊んだことのある幼馴染みの家が、その日はまったく違って見えた。普段は入らない和室に通されると、部屋の奥に見知った顔の写真があるのを僕は見つけた。近所のおばさんと話をしている母にそのことを知らせようとしたけれど、見上げた母の顔が怒っているように見えて、やめた。

―― 「ヒビキ、よく聞いてね」
―― 「コトネちゃんのお父さんが亡くなったの」
―― なくなる?何が?
―― 「死んでしまった、っていうことよ」

 幼馴染みのコトネの父親は、遠くに働きに出ているとかで家を空けていることが多かったけれど、帰ってくるといつもお土産をくれて、優しくて、僕も好きだった。彼に会えなくなるのは寂しいこと、だと思う。けれどそれが「悲しい」という感情に結びつくことはなかった。

 「ヒビキくん、」
大人の真似をして正座をしていたけどそれもすぐにやめた。退屈だった。あの子も、いないし。そんな時、声をかけられた。
「おばさん」
「来てくれてありがとう。コトネ、隣の部屋にいるの。ヒビキくん一緒にいてもらえないかしら」
僕がうなずくと、コトネのお母さんは赤くなっている目を細めて笑った。すぐ横の父が僕の頭を撫でた。見上げても父は何も言わず、不思議に思いながらも、疲れた顔のコトネのお母さんと、彼女に話しかける母を背に立ち上がった。
彼女は、コトネは、悲しいのだろうか。だったら元気にしてあげたい。でも、どうしたらいいんだろう。悲しい、という気持ちにたどり着けないでいる僕は悩んでいた。

 「コトネ?」
彼女の後ろ姿に呼びかける。
「あ、来てたんだ、ヒビキくん。いらっしゃい」
初め、目を丸くしていたコトネは、いつものように笑って迎えてくれた。その笑顔に、僕の方が驚いてしまった。あれ、どうして。
「泣いてないの?」
「泣くって、わたしが?」
「おじさん、死んじゃったって」
「うん。わたし、よく分からないけど、お母さんが」
「悲しく、ないの」
「え、うん」
 コトネがあまりにきょとんとしているから、拍子抜けした。
なんだ、僕とおなじじゃないか。
そう思ったら、安心した。そうだ。僕らは同じだ。
「ねえ、何して遊ぶ?」
大きな目が僕の顔をのぞきこむ。

 「死」とは悲しいものである、らしい。でも、僕にとってそれがどれほどのことだろうか。現に外ではいつもの風の音がするし、お気に入りのおもちゃがなくなったわけでもなく、幼馴染みは変わらず僕に笑いかける。たとえ今一番気に入っているおもちゃが壊れたとしても、彼女が笑うなら、僕もつられて笑ってしまうに違いない。この子さえいれば、きっと自分は大丈夫。

 人が死ぬということは特別なことではあるんだろう。それでも、僕にはコトネがいる。その事実に勝てるものは何もない気がした。この先ずっと、ずっと。
ずっと。



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Children Lost Lostness
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 「だから、あの子は死んだの!もういないのよ!どうして分からないの?」
―― ちゃんと分かってるよ。君こそ、何をそんなに嘆くことがあるの?

 結局、今でも人が死ぬということがよくわからない。死と、哀しみとを繋ぐものを、僕は見つけることができないでいる。


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作品名:Children Lost Lostness 作家名:依世