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フラニー西田(仮)。
フラニー西田(仮)。
novelistID. 16386
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yellow!

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不意にがっと肩を抱かれ、『三十路の癖に髪なんか染めてちゃらちゃらしてんじゃねー。』と、したたかに酔った監督に絡まれる。

彼の男性にしては細い指先が、自分の『いつも綺麗に染めてるよな。』と恋人に褒められる髪を酷く詰まらないもののように弄ぶので、大事なものを貶されたようで自然と眉間に皺が寄る。表情を変えた俺を心底意地の悪い笑顔で見返すものだからこちらの苛立ちは更に増すが、『その言葉、そっくりお返しします。』と小さな声で冷たく返してやった。


「可愛くねーな」


三十路男が可愛くてどうするのか。そもそも前提が間違っている。
男ばかりの職場の飲み会で、そういうにぎやかしというか可愛い処を求めたいのであれば、若くて小奇麗な椿とか清川辺りに任せておけばいい話で、そもそもあんたに可愛いと言われずとも自分を『可愛い』と言ってくれる人間は別に居て、彼だけが若干不本意ではあるがそう思ってくれていれば自分はそれで一向に構わない。世間的には『残念な』人間、おまけにゲイであるかもしれないが、そんなものは知ったことではない。

そもそも。いつもはこういった席で監督の手綱を握る人間が今日は不在だ。フロント、しかもGMという立場で毎回選手主催の飲み会に参加出来るものなのか良くは解らないが、少なくともこの人が居る時はほんの数十分でも顔を出してほしいと後藤に頼んだのは万年幹事の丹波とその丹波をフォローする堀田だった。それくらい監督の酒癖はあまりよろしくない事は、そう多い訳でもない飲み会の中ですっかり知れ渡っていた。

びっくりするぐらいザルの日もあれば(そして相手をさせられた人間はほぼ例外なく潰れる)、開始30分で出来上がってしまう日もある。絡む日もあればはしゃぐ日も寝る日もある。多彩だった現役時代のプレーとリンクするかのような、酔った達海猛の取り扱いを十数年前から心得ているであろう元同僚の後藤に、たとえ立場がアレだとしても白羽の矢が立ってしまうのは、色んなことをさておいてもまあしょうがない事のような気がしていた。・・・後藤が、3年かけて去年ようやく落とした自分の恋人で、更に言えば達海の元彼であるという事実があったとしても。

今日ごとーは?こねーの?
人の髪を弄びつつ達海はぼそぼそと耳元で呟く。
知るか、と怒鳴り散らしたいのをなんとか抑えて(実際こんな事をするのが石神や夏木ならとっくに放り出している)、『今日は無理でしょう、スポンサーの接待だって言ってましたから。』と同じトーンで返せば『さーすがによーくしってんね。今カノさんは。』と皮肉めいた声音で返された。

どこをどうしたら10年もほったらかした同性の恋人が(しかもどこに出しでも恥ずかしくないとびきりの好青年だぞ。普通に結婚してるだろうが)自分を健気に待っていてくれると思えるのだろうか。しかし達海は実際に帰国後も10年前と同じように、後藤との関係を継続出来ると思っていたらしい。天才はどっかやっぱり思考回路がぶっ飛んでいるものなのだろうか。

まあそれはともかくとして。
達海が何事も無かったように恋人関係を復活させようとしたら、結婚こそしていなかったものの後藤には既に新しい恋人が居て(まあ自分のことなのだが)。後藤に丁重に関係修復の申し出をお断りされた達海が、『じゃあ誰と今付き合ってんの、いわねえとイングランド帰るぞ。』と脅しをかけ。後藤は自分との関係をはじめて他人に公開したのだった。それからというもの、自分は達海に事あるごとにこうして絡まれることになる。

(ゴネたいだけなんだよ。)
ちょっとだけ寂しくて、誰かに甘えたいだけなんだよ、達海は、と、後藤はいう。
絵葉書ひとつで散々探し回り連れて帰って期待を持たせた手前なのか、後藤は達海との関係を修復するつもりはないと言いながら彼に死ぬほど甘い。それが自分を寂しくさせたり苛立たせたりするという事を解りつつ、だ。惚れて押しまくって恋人の座を獲得したという負い目もあって、なかなか表には出せないが、この男の存在は自分の気持ちをひどくささくれさせる。

いずれサッカーに影響するぞ、この野郎。

うんざりしつつジーンズの尻ポケットに入れていた携帯の画面で時間を確認すると、そろそろお開きの時間で、更に1件のメールの着信を告げていた。自分も酔って呆けているのだろう。迂闊にも普段は絶対にしない、無頓着にそのまま手癖でメールを開封したタイミングで、俺の肩を抱いたままグラスを開けていた監督が画面を覗き込んで。あ、と小さく声をあげた。


「・・・」
「・・・・・・」


腐っても元日本代表候補、エースナンバーをつける筈だった男達海猛。いや腐ってないけど。
一瞬で画面を閉じたつもりだったけれど、彼の衰えない視野の広さはしっかり差出人『後藤 恒生』を確認したらしい。表情は平静を保ちつつ内心にんまりする俺とは正反対に、仏頂面を思い切り作って隠そうともしない監督は小さく舌打ちをして。

『良い夜を~。』と俺のセットした髪を台無しにするようにぐしゃぐしゃとかき回した。
作品名:yellow! 作家名:フラニー西田(仮)。