ラブ ノー ワン バット ミー !!
出逢い方をまちがえたのだ。今となってはそうとしか思えない。彼に俺ひとりを見てもらう方法としてはああいうやり方がベスト、だったはずだ。その証拠に高校生活の3年間、俺は予想していた以上にあいつに時間を喰われることになったし、さらにそのあと4年にわたってずーーーっと喧嘩しっぱなし、だなんてアホなことになっている。つまりやっぱり、俺ひとりを見てもらう方法としてはあれがベストだったわけだ。でも出逢い方としてはベストでなかった。ああもう、なんでこんなことに。俺はあいつとの喧嘩で人生を終わらせる気はさらさらなかったんだけど。んでもってこういうふうに有名になる気もさらさらなかったんだけど。今じゃ俺たちは「池袋24時間戦争コンビ」なんてまるで仲良しごっこしてるみたいな愛称で呼ばれて俺たちの命がけの喧嘩はさながら池袋名物だ。これを見るためだけに来る女子のみなさんもいると言うのだから、もう本当にどうしようもない。俺はね、シズちゃん。こんなふうに目立ちたかったわけではなくて、ていうかそもそも目立つのは俺の得意とするところじゃないっていうかどちらかというと俺は黒幕思考なのであって、ようするに何が言いたいかというとそろそろこんな喧嘩ごっこ止めにして俺に愛されちゃわないかってこと!!
なんで伝わらないんだろう、俺が最初にああいう出逢い方を望んだのだって、結局のところシズちゃんを愛したかったからだった。いやまあその時点ではシズちゃんのことなんて話にしか聞いてなかったわけだけど、俺はこいつは使えると思うと同時に愛してやろうと決めたんだ。だからあんなに派手に挑発して、俺しか目に入んないように、当時はまだ情報屋としちゃ駆け出しだったから大して稼いでなかったってのにそのなけなしの金まで使って目を惹こうとしたのに。俺のきもちはこれっぽっちも伝わらなかった。新羅なんかに言わせると「君は愛情表現ってヤツを180度捉え間違えてるんだよねー」ってとこなのかもしれないがそういうおまえはどうなんだって話だ。首無しの人外を心底愛す変態のクセに。いやでもあいつの場合その愛情が伝わってるからそれでいいのか?ちくしょうこの俺が変態に負けるなんて。
でもシズちゃんがあそこまで話の通じないヤツだなんて俺だって予想外だったんだよ。だってあの変態闇医者の愛してる首無しの運び屋さんは首がないのに言葉が通じるじゃないか。シズちゃんはちゃんと首もあるし五体満足なのに人間の言葉が通じないんだよ。そんなの相手にどうやって愛を伝えろってんだよ。わかんないよ。ああちくしょう。シズちゃんのくせに俺を悩ませるなんて。つかシズちゃんは俺のことどう思ってんの?むかつくなあとかそんなとこ?そんな相手に7年も喧嘩売り続ける?信じらんない。シズちゃんの脳みそがわかんない。ダメだ、いちど新羅に頼んでシズちゃんの脳みそ解剖してもらおうかな。そんで俺にシズちゃんの思考回路がどうなっちゃってんのか教えてくれ頼むから。
ねえ、たとえば、たとえばの話だよ。もし愛してるヤツがいたとして、そいつのことをずっと愛しちゃってるとして、「愛してる」って言えたら、そいつに向かってきちんとまじめに言えちゃったなら、なにか変わるんだろうか。変わってくれるんだろうか。「愛してるから愛してよ」って、それだけでなにか変わるんだろうか。この、おふざけみたいな喧嘩ごっこよりもっと素敵な、ラブがフィーバーしてる世界にいけるんだろうか。ねえシズちゃん!今日こそキミに俺は言うよ。人混みの中頭ひとつ分突き抜けたその細いバーテン服の背中に向かって、ねえシズちゃん!!「ねえ!」愛してるから俺を愛して!!!
作品名:ラブ ノー ワン バット ミー !! 作家名:坂下から