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魔法使いの弟子

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 とんっ
 とんっ
 とんっ……。
 蹴って、跳んで、止まって、落ちて、また蹴り上げる。その繰り返し。
 何でも『りふてぃんぐ』とか言うらしい。
「上手いもんだよなぁ〜……」
 とんっ
 とんっ
 とんっ……。
 何度蹴り上げられてもボールは足元に戻ってくる。
 風がそいつのマントをパタパタと動かしているのに対して、そいつ自身は全くと言っていいほどその場所から動かない。
「綱海」
「ん?」
「見てばかりいないで、お前もやってみろ」
 ぽんっ。
 こっちに向かって蹴られたボールは、丁度俺が蹴りやすい位置に来たから受け止めるのは簡単だった。
(で、こう上に向かって蹴って、落ちてきたところを――)
 宙に上がったボールが、落ちてくる。
 それを待ち構えて、もう一度蹴った。
 
 ボンッ!
 
「――あ、」
「……」
 うっかり力一杯蹴り上げたボールは、そのまま空に向かって思いっきり吹っ飛んだ。
「あー、ちっと加減間違えた!――って……んな、すんげー呆れた顔すんなって!」
「……何故思い切り蹴る」
「や、何つーか……条件反射じゃねぇの?」
「……」
「つか、やっちまったことをいつまでもぐちぐち悩んだって仕方がねぇだろ?大丈夫だって!次は成功させてやっからよ!」
「大した自信だな」
「やれるって思わなきゃ、できることもできねぇだろ?」
 そんなのは当たり前じゃないかと言うと、何故か笑われた。
 ゴーグルのせいで目は見えないが、眉毛と口元と、あとはまあ声とか全体の感じで機嫌の良い悪いくらいは分かるものらしい。最初は妙と言うか変と言うか、取り敢えずインパクトが半端ねぇと思ったこいつの外見にも、半日もすれば慣れちまった。
(……つーか、ボール戻ってこねえなぁ〜……?)
 もしこのまま戻ってこなかったら弁償しなくてはならないのか?と。何となく尋ねれば、「まあそうだろうな」なんて答えが返ってくる。
「マジでか!?」
「むしろ当然だと思うが?」
「うへぇ〜……ところで、サッカーボールっていくらくらいで買えるもんなんだ……っ?!」
 ふっ、と。
 何気なく上の方を見上げると、よりにもよって目の前の鬼道の上からボールが降ってきた。
「あぶねぇ!」
「いや、」
 
 ――とんっ。
 
 とんっ
 とんっ
 とんっ……。
「……」
 鬼道は、落ちてくるボールを見もせずに、受け止めた。
 ――足で。
 そして、何も無かったように『りふてぃんぐ』を始めている。
「……」
「ほら、」
「っおう!」
「余り高く蹴ろうとするな。慣れるまでは長く蹴り続けることに集中しろ」
「って、言っても、よ……っとわ!」
 ぼんっ
「っと、は……っ」
 言われた傍から落としかけたボールを何とか滑り込ませた足で持ち上げた。
 が、流石に体勢的に無理がある。
 結局、すぐに立ち上がることができずに、ボールはころころと地面を転がっていった。
 転がったボールは、鬼道の足に当たって、もう一度こっちに向かって蹴り返される。
(今度そこ……!)
 そう意気込んだものの、さっきよりはマシとはいえ、あっちこっちに走らされた挙句10回も続かなかった。
「っかー!まだるっこしぃ〜……」
「言っておくが、これはサッカーの基礎中の基礎だからな」
「わかってるって!やるよ、やるけどよぉ……」
 何というか、性に合わないのだ。
 力をコントロールしろとか――そういったものは、こう、ストレスが溜まって仕方がない。
 だが、力一杯蹴り上げればさっきの二の舞である。それは分かっている。分かっちゃいるが……。
「でも、こう――――スカッといきてぇんだよなぁ〜」
 力の限り走って、跳んで。でもって、力一杯ボールを蹴り飛ばす!
 そういう分かりやすくのが良い。
 思わずそう言えば、鬼道は溜め息を吐きながらも少しだけ笑った。
「貴様らしい理由ではあるが、な」
「ん、そーか?」
「ああ」
 そんなことを話しながら、ついさっきまた俺が飛ばしたボールを手で持ち上げる。それをぱっと体の前で離して、そのまま落ちてきたボールを蹴った。
 足で、膝で、もう一度足で、爪先で、足の横で、甲で、膝で……。
(……よく続くよなぁ……)
 自分でやってみているから、よく分かる。
 これは絶対に簡単じゃあない。
 それなのに、こいつはすごく簡単そうにボールを蹴り続ける。
(そういや、試合中もすげぇよな。何つーか……)
 なかなか上手い言い方が思い浮かばなくて悩んでいたが、ふと、ようやくしっくりくるものが見つかった。
 自分たちがボールを蹴って追い駆けているはずなのに、鬼道の場合は、ボールが鬼道に擦り寄っていくように見える。
「何かさ、」
「?」
「ボールがお前に懐いてるよーに見えるんだよな」
「……は?」
 ……とんっ。
 ボールは、足から手の中へ。
「――鬼道?」
「……」
「どうした?何かあったのか?」
「……いや、」
「?」
「……妙な言い方をするな、お前は」
「そ〜か?」
「ああ」
「ふ〜ん?でも、そうでもないと思うぜ。さっきのボールの話だろ?」
「――技術は練習でしか身につかないからな。お前も力加減を覚えれば、これくらいはできるようになる」
「ん〜……よっしゃ!じゃあ、もう一丁やってやるぜ!」
「その意気だ」
 ぽんっと、今度は手で投げられたボールを足で受けて、落ちてきたそれをもう一度、そっと持ち上げるように蹴り上げた。
「まだ高い」
「っおう!」
 まだ自分に懐いていないボールは、やっぱりあちこち勝手に行きたがる。そんなじゃじゃ馬を何とか追い駆けながら、蹴って蹴って蹴って、を繰り返す。
「お、っと、っと……っ!」
「同じ場所に落ちてくるように、考えて足を使え」
「そん、な、もん、いき、なり……っできるか、よ……!」
「考えながら動かなければ、いつまで経ってもそのままだぞ」
「――っ!」
 そうは言うが、頭を使うのは苦手なのだ。
 が、そんなことを言ってやらずじまいでは、本当にいつまでたってもこのままなんだろう。
(蹴る場所、蹴る場所……ここか?)
 ぼんっ
(違う!じゃあこっちか?)
 ぼんっ!
(――っ違う!なら……)
 
 ぼんっ
 ぼんっ
 ぼぼんっぼん……。
 
 ――とんっ。
 
「――――お、」
 
 《終わり》
何かを掴んだ
作品名:魔法使いの弟子 作家名:川谷圭