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はらはらと零れ落ちる、

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 最近買ったお気に入りの赤い靴は、軽かった。イノセンスはわっかとなって、わたしの足元でからからと回っているが、それはおしゃれを邪魔するわけでもなく、ただ傍にあった。おかげでわたしは、店先で並んでいるおもちゃのような靴を、履けるようになった。ずっと憧れていたものだ、これほど嬉しいことはない。たとえ、輪となったイノセンスを見て兄さんが顔を歪めようとも、心躍るものは踊るのだ。
 冬の街を皆、急ぎ足で通り過ぎていく。ぶ厚い外套を羽織った人が、どんどんわたしを追い抜かしていく。わたしぐらいだ、こんなゆっくりとした調子で店をひやかしながら、歩いているのは。ほとんどお金も持たずに飛び出してきたが、商品を眺めているだけなのも悪くない。なんというか、そう!普通の女の子のようで幸せな気分だ。
 と、そんなふうに貴重な休みをいい気持ちで街中を歩いていると、いい気分を邪魔する無粋なものが現れた。さっきからなんとなく視線を感じていたが、少し寂しくなった道に入った途端これだ。教団内での、兄さんのあの過保護っぷりが今はとても懐かしい。ぬっと現れ出たその男は、まあ確かにそんなに顔の造りが悪いわけでもなかった。少なくとも、どっかのセクハラ班長さんよりはましだった。きっと、自分でもわかっているのだろう。ああ、こういうタイプは面倒だ。自覚がある分、少々強引でも許されると思っている。しかしわたしからしてみれば、周りにはきらきらがついてるのかとも思うほどの美形が揃っているので、その男に関してどうにもこうにも興味が起きない。わざわざ隠す努力もしていないので、結果思い切り顔に出てるだろうなと思うのに、男は全く気にならないのか、それとも気づいていないのか、にこやかに話しかけてきた。

「一人でお買い物?」
「急いでるから」
「少し一緒に歩いてもいいかい?」
「急いでるから」
「なら、君の歩調に合わせて歩くから」

 どんなに冷たく言っても、その男は笑みを絶やさない。ああ、これは本当に面倒なものに捕まった。物腰から言動まで、すべて手馴れている。対してわたしはと言えば、これまで過保護すぎる兄さんに守られてきたものだから、あまりナンパの対処法を知らない。ノックアウトさせることは簡単、だが相手は一般人。こういうときに何も知らない自分が、すごく怖かった。何もできない自分が酷く弱いものに思えて、思わず唇を噛み締めたそのときだった。

「―――リナリー?」

 聞き慣れた声だった。反射的に振り向くと、やはり思ったとおりの相手がいた。

「アレンくん!」

 彼は目をぱちくりさせて、わたしといつの間にかわたしの腕を取っている男を見て、一瞬逡巡したあと、つかつかと近付いて男の手を払った。

「すみません。僕の連れが何かしましたか?何か粗相をしたなら謝りますが」

 物言いは丁寧、しかしその視線は強かった。男はちょっとだけ肩を竦めると、またいつかとわたしに囁いて去って行った。うーん、なんとも気障ったらしい。まあ、すっぱり引くところだけは評価して、赤点はつけないでおこうか。

「すみません。でしゃばった真似しちゃって」

 いきなりアレンくんがそう謝ったものだから、わたしは焦って勢いよく首を横に振った。けれど、なんだかそれは自分が弱くて助けてほしかったことを認めているような気がして、あとからわたしは付け足した。

「で、でも、あれぐらい、わたし一人でなんとかできたんだよ!アレンくんが来てくれて、ちょびっとだけ助かったけど、でもとっても困ってたわけじゃないんだよ!」

 馬鹿みたいな強がり。誰が聞いたって強がりにしか聞こえない。しかし彼は、わたしの強がりに気づかず、そうですねと優しく笑った。決して、わたしのことをからかっていない、本当に彼は気づいてなさそうだった。
 ああ、そうだ。世界にはたくさんの優しさがあるのだ。すべてを包み込む優しさ、細部にいたるまできちんと気づいてくれる優しさ、そして気づかないでいてくれる優しさ。彼の優しさは、まさにそれだ。
 ウォーカー、と監査官の声がした。ティムキャンピーと監査官、二つの金色がこちらに向かって走ってくる。監査官は生クリームやチョコレートといったものを覗かせた、大きな紙袋を抱えている。きっとお菓子の材料調達に来たのだと、簡単に推測できた。まったく、目を離した隙にこれですかと監査官はぶつくさ文句を言う。まあまあとアレンくんは宥めてから、立ち尽くしているわたしに、どうしますか、一緒に帰りますか?と手を差し伸べてきた。わたしは有難くその手を取った。







 彼の優しさにわたしは何度救われたことか。しかし、どんなに甘えて縋ったところで、なんにもならない。彼の優しさは、決して正しいものではないのだから。
作品名:はらはらと零れ落ちる、 作家名:kuk