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an elegy.

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これは明らかに同情だった。

町の路地の奥の奥へ、昼間だというのに薄暗い空間へ引っ張られる。
その手は先程から何を言っても振り返らない。ただ前だけを見ている。
俺の力があればこんな細い手から出る弱い力なんて簡単に払えるけれど。
普段あんなにうるさい口がここまでだんまりを決めているのが気になった。

薄暗いほうへ進む足に対して、怒りよりも恐怖のほうが勝っていた。
散々、殺し合いをした仲だ。奴がどういう人間か大体把握しているつもりだ。
今更こんな人気のつかないところに俺を引っ張って行って自ら殺すことはしない。
そんな堂々と俺を殺しに来るのならば、俺たちの仲はここまで最悪になっていない。
何よりも今の臨也からは殺意を感じられない。
だから、先程述べた恐怖とは、命を奪われることに対してのものではない。
相手がそういう気配を纏えばすぐにわかる。長い時間をかけて磨いた感覚だ。
余計に恐ろしいのだ、なぜ、殺意を感じられないのか。

意味のないことをするような人間には思えなかった。嫌というほどに。
何らかの理由があってこんなことをしているのだろう。
細い腕からめいっぱいの力を振り絞って、俺の腕を引いて、こんなところへやって来て。
何がしたいのか、俺の思考では既に考えられる領域から外れている。
人一倍気の短い俺にしてはよく頑張ったほうだろう。だがもう限界だ。
舌打ちと一緒に臨也の手を振り払った。

「何のつもりだ、てめぇ」

手が離れて初めて、臨也は足を止めた。それでも臨也は喋らない。振り返らない。
少しだけ肩で息をしながら、ただ黙り続けている。
重い沈黙が流れる。こいつと一緒に居て静かになるなんて初めてじゃないか。
だけどその静寂は俺の好む穏やかなものとはかけ離れていた。
ひどくびりびりした空気で、一分一秒が異様に長く感じて、息がしづらい。
あまりの居心地の悪さにもう一度口を開こうとした、その時だった。

「なんで?」

あまりにも短い、文字にするとたった三つの言葉。
長く感じた少しの沈黙を破ったのは、臨也にしてはシンプルすぎる言葉だった。
突然、投げかけられた疑問の声に返す答えなど知らない俺は、もちろん黙った。
そして驚いて怯んでいた隙をつかれたため、俺はあっという間に壁に押し当てられた。
背中が強めにぶつかって、臨也に掴まれた襟元のせいで息が詰まった。
げほ、とひとつ咳き込んだせいで俺の声はまた飲み込まれてしまう。
だがすぐに状況を把握すると、思考は怒りに染められていって、爆発しそうになった。
だがそれも一瞬でしぼんだ。

「なんで…!?俺じゃ、俺じゃダメなのかよ!?」

今まで聞いたことのない声色だった。
叫んだ声は悲鳴にも似ていて、あまりにも必死で、語尾は震えていた。
いつも淡々としていて、無駄な言葉を連ねて長々と上から目線で話す。
そんな臨也は何処にも居なかった。今ここに居るのは余裕の欠片もない男だ。
俺の襟を掴んでいる両手も震えていて、ただ顔は伏せられたまま。
さらさらの黒い髪からは、荒い息使いの音だけが耳に届いた。

俺の襟を掴む臨也の手の力は弱まらない。
息が苦しいのは、首が締まっているせいだけじゃないのだろう。
これはただの同情だ、わかっている、よく理解している。
それでも俺はこの可哀想な男を愛おしいと思ってしまった。
作品名:an elegy. 作家名:しつ