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その感情の名は、

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帝人の口から紡がれる言葉を聞きながら、途中までは何でもない顔が出来ていたと思う。
九十九屋という男に関しては青葉も調べてあった。警戒する程の事ではない。
そう。だからそこまでは良かったのだ。
けれども――

「本当は、折原さんに相談できれば良かったんだけど……ここ最近、連絡が取れないんだ」
「……」

何でもない顔で帝人はその名を口にする。その表情が何を考えているのか青葉には読めなかった。それは青葉がまだ帝人を理解しきれていない事もあったが、青葉がそれどころではなかった事も原因の一つだった。
青葉はその名を聞いた瞬間、唇を噛み締めていた。そうでもしないと、一瞬で青葉の心を支配した『感情』が表に出てしまいそうだった。
その『感情』の正体に青葉は気付かない振りをする。

そんな事を考えている間にも帝人は言葉を続けていた。

「それだったら、お金はかかるかもしれないけど、臨也さんに頼んだ方がいいと思ったんだよ。でも……本当に、どうしたのかな」

そう言う帝人は単に疑問に感じているだけのようで心配しているのかどうか青葉には分からない。それでもきっと心配しているのだろう。帝人はそういう人間だ。
だからこそ、青葉は冗談のように不謹慎ともいえる事を呟いてみせた。本当は冗談ではなく本心だったけれど、それを表に出す事ない。
しかし、本心であったからこそ青葉の目には折原臨也に対する隠し切れない本気の敵意が浮かんでいた。だが、青葉自身はそれに気付いていない。

帝人は帝人で青葉のその表情に気付いているのかいないのか、肩を竦めるだけだった。

「駄目だよ、冗談でもそんな不謹慎なこと言ったら。折原さんは、ダラーズのことも色々と気にかけてくれてるんだから」

そう言った帝人の目には折原臨也に対する不信感はまるでなかった。
それどころか信頼しきった目をしているように青葉は感じた。
それが気に食わなくて、それでも青葉は何も言わなかった。いや、言えなかった。
今、青葉が帝人の隣にいられるのは帝人が臨也を信頼しているからなのだから――



帝人やブルースクウェアの面々と別れた後、青葉は帝人との会話を思い出して表情を歪めた。
やはり気に食わない。そう思った。
気に食わないのは何故帝人が折原臨也を疑わず、信頼しているのか。その一点に尽きる。
けれど同時に分かってもいた。帝人が臨也を疑わずにいるからこそ、帝人は青葉の兄がブルースクウェアの一員としてかつて帝人の親友に何をしたか知らずにいる。知らずにいるからこそ帝人は今、青葉達と共にいるのだろう。
そう思いつつ、もしかしたら帝人はもう全て知っているのかもしれない。知った上であんな事を言っている可能性がない訳でもなかった。
それすらも分からないのだ。本来なら分かっていただろう事が今となっては分からない。

帝人を利用しようと近付いた時にはこんな事になるとは思っていなかった。もっと上手くやれる。そう思っていた。
不安要素は折原臨也だけだとそう思っていたのに、まさか竜ヶ峰帝人本人に手こずる事になるなんて夢にも思っていなかった。
けれど、それはそれでいい。むしろ、それは嬉しい誤算と言えた。
青葉は今となってはそんな帝人の事をある意味で気に入っていた。だから帝人の事はいいのだ。

問題はやはり折原臨也だと青葉は思う。
何故あんなにもあの男は帝人の信頼を勝ち取っているのだろう。
そもそも帝人と折原臨也との関係も上手く掴めなかった。折原さんと呼んだと思ったら次は臨也さんで、最後にはまた折原さんと帝人は呼んでいた。本人の前ではどちらで呼んでいるのだろう。
そんな赤の他人にとってはどうでもいい事ばかりを青葉は考える。
いや、正直な話をしてしまえば先程から青葉は帝人と臨也の関係の事しか考えてはいなかった。他の事柄は今の青葉にとって単なる付属品でしかない。
帝人の口からあの男の名前が出た時から青葉の心を支配しているとある『感情』に青葉は気付かない。
気付かない振りをする。



それが『嫉妬』と呼ばれる感情である事を青葉は今日も見て見ぬ振りをする。

作品名:その感情の名は、 作家名:純華