二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

蝸牛の憂鬱

INDEX|1ページ/1ページ|

 
グッタリとしている俺の額に濡れたタオルを当てながら、ナミが心配そうな顔で覗き込む。

「大丈夫?」

「……ぎぼぢわるい」

声を出すのも辛かったけれど、やっとのことでそれだけ言う。

「まさか船酔いなんてねぇ」

困ったようなナミの声。

そう。

俺はひどい船酔いにかかっていた。

だって、最初は宴会で盛り上がったり、初めてのことだらけで珍しくて興奮して、楽しくてそれどころじゃ なくて、知らなかったんだ。船がこんなに揺れるなんて。大地がないのがこんなに辛いなんて。

それで、まだ病人のはずのナミが俺の看病をしてくれていた。鼻の長いウソップもきれいな青い髪のビビも、 連日の宴会のおかげで今の俺ほどじゃないけどグッタリしていたし、ルフィはうるさいからって、ナミに 追い出されて見張りをしていた。

「おい、調子はどうだ?」

ガタンと天井が音を立て、片手に何かを持って緑の髪の…ゾロが下りてきた。

「駄目みたい…何? それ」

「粥だと。クソコックが、胃ん中空っぽよりは何か食った方が楽だろうからってな」

「ふーん。…食べられる?」

後の問いかけは俺に向けたらしい。ぼんやりとゾロから手渡されたナミの手の上のものを見る。白くて 柔らかなご飯が湯気を立てていて、その湯気が俺の鼻先をくすぐった。

「……うぅぇっっ」

匂いに反応するように胃がビクッと動き反射的に起き上がると、逆流してくる胃液を傍らのバケツへと 吐き捨てた。

「…駄目みたいだな」

納得したようなゾロの呟きが遠くから聞こえるようだった。

酸っぱくなった口の中をすすぐための水を、ナミがグラスに注ぐ。それを受け取ってブクブクと口を 洗っているうちに、自分が情けなくて目に涙が滲んできた。

「………えっぐ」

「チョッパー?」

ナミが驚いたように、不思議そうに俺の肩に手を触れる。その手が柔らかくて優しくて、また涙が込み 上げた。

「…ひっぐ」

「どうしたの? どこか苦しいの?」

優しいナミの声。

ブンブンと首を横に振る。

「おいおい、そんなに首振ったら余計気分悪くなるだろうが」

呆れたような、けれど心配そうなゾロの声。

「…ああ。しょうがないわよ。今まで船に乗ったことなんてないんでしょう?」

わかってくれたようにナミが言う。

「……でぼ」

ズルッと鼻をすすって、しゃくりあげながらだったけど、それでも思ったことを2人に伝える。

「でぼ、俺、船医どじでごの船に乗ったはずだどに、ざいじょからごんなごとで、やっでいげるのかな、 っで」

「いや、だから最初はしょうがないって」

鼻紙を渡してくれながらナミは苦笑する。

チンと鼻をかむと、ナミが「横になっていた方がいいわよ」と、俺の体を横たえる。

「…お前達も最初はこうだったのか?」

グルグルする視界で、それでも2人のことを見ながら聞いた。

「……」

「……」

困ったように顔を見合わせるゾロとナミ。

やっぱり俺が異常なんだ。そう思ったらまた情けなくて泣けてきた。

「お前な…そんなことでウジウジしてんじゃねーよ」

ゾロが溜息をついて言う。

「そうよ! 船酔いなんて慣れよ、慣れ。あと3日もすりゃあ、慣れるって!」

ナミが明るく言う。

「…本当?」

乗り物酔いは、三半規管の機能障害だから、当然、治らないこともある。慣れるなんて嘘だ。

それでもナミは笑顔で言う。

「本当よー。それにこれからは色々と忙しいんだから、倒れられてちゃ困るんだからねっ」

叱咤激励とはよく言ったもので、ナミの明るい声を聞いていると、なんとなくそんな気がしてきた。

「ゔん。わがった。俺、早く慣れるようにするよ」

「そうときたら、まずは食え。そんなんじゃ、いつまでたっても慣れねーぞ。『医者の不養生』なんて、 洒落にもならねぇ」

ゾロが鼻先に粥の入った皿を突き出す。

「ちょっと! 無茶させちゃ駄目よ!」

「…ううん。俺、食べるよ」

慌てて皿をひったくるナミに、グシグシと涙を拭いて、そろそろと起き上がりながら俺は言った。

「大丈夫なの?」

「うん。食べないと体力持たないし、それに、胃も荒れるから」

「わかってんじゃねーか」

ゾロの言い様は、だったら最初から食え、と言わんばかりだったけど、それでも心配して言ってくれてる のはわかったし、大体、これが作った当人だったら、きっともっとキツいんだろう。

ナミから皿を受け取ろうとするけど、ナミは皿を引いて渡さない。代わりに目の前に粥の盛られたスプーンが 突き出された。

「はい。あーんしてv」

ニッコリ微笑んでナミは言う。

「えぇっ!? いいよ! 自分で食べられるから!」

「そうだぜ。そんくらい、自分で食わせりゃいいじゃねーか」

慌てる俺の横で、何でか知らないけどゾロも言う。こころなしか、怒っているようにも見える。そんな ゾロが何となく怖くて、あたふたと皿に手を伸ばすけど、ナミにぴしゃりと遮られる。

「そこ、うるさい! …チョッパー? 病人はおとなしくしてろ、って言ったの、誰だっけー?」

「俺だけど…」

ナミは笑ってるし優しいけど、何だか怖くてビクビクと答える。

「そうよねー。病人はジッとしてなさい! はい、あーんv」

「でも、お前も病人だ…」

「うるっさい!! …はーい、チョッパーv」

一喝されて渋々と黙ったゾロに脅えながら、俺は恐る恐るナミの差し出すスプーンから粥を食べる。粥は ほっこりと柔らかくて、米の甘さと薄い塩味が空っぽの胃袋にすうっと溶けていくようだった。

「おいしい」

胃袋が空っぽだったから、気持ち悪いだ何だと言っても粥は平らげてしまった。食事も取ったことで、 どうにか薬も飲め、そうすると体力を消耗している事もあってか、トロトロと眠くなる。

「少し休むといいわ」

布団の上から、ナミが優しく俺のお腹を撫でてくれる。それがあんまり気持ち良くて、次第に意識は 遠のいていく。何だか、またゾロの声が聞こえた気がしたけど、それが夢なのか、現実なのかはもうわからなかった。



そして俺の船酔いはナミの言うとおり、3日で治まり、元気に甲板を掃除している時に「ナミってすごいな。 医者になれるな」と舳先で寝ているゾロに言ったら、ゾロも薄目を開けてこっそり俺に耳打ちした。

「ああ。ありゃ魔女だからな。何でもお見通しなんだ」
作品名:蝸牛の憂鬱 作家名:坂本 晶