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みそっかす
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novelistID. 19254
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汗、熱、夏風

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汗、熱、夏風


 タクトと稽古をすることが、近頃のスガタの休日だ。
 タクトがスガタの家に訪れるときは大抵幼馴染の少女も一緒だ。最初は二人が稽古をしている間暇ではないのかと心配したが、稽古を見ていたり、メイドたちと一緒にお菓子を作っていたりと彼女なりに楽しんでいるようだ。
「準備は出来たか?」
「ああ」
 道着に着替え、向き合う。
 初めはスガタがタクトに稽古をつけていたが、それももうない。吸収が早いタクトは元々の技量もあり、いまや互角だ。
 全力で勝負をするこの時間がスガタは好きだった。
 全身の感覚が研ぎ澄まされ、木刀の切っ先、道着の裾にまで神経が行き通う。
 タクトと打ち合うたび、血は冷たく燃えて身体を駆け巡り、一層神経が張り詰める。
 そして、普段では見られない好戦的な光を宿したタクトの眼が、自分一人にしか向けられないことが、何よりもスガタの気分を昂揚させる。
 冷静な色をたたえながらも、動物的で物騒な、二つの視線が絡み合う。
「さぁ、始めよう」
 今はもう、お互いしか見えない。

 どれくらい打ち合っただろうか。
 同じ力量同士の者の勝負は、長時間続くか一瞬で決着がつくかのどちらかだ。
 二刀流を駆使するタクト。その一本のスガタが弾いた瞬間、勝負がついた。
「っ!!」
「っ!!」
 勝敗の要因はお互いが使う獲物の長さ。
 やや長めに作られたスガタの木刀の切っ先はタクトの咽元寸前。
 対して短めに作られたタクトの木刀の切っ先は、拳一つ分届いていない。
 沈黙が落ち、視線が絡み、同時に笑みを浮かべた。
「っ、あ〜、負けた」
 タクトはそのまま脚を放り投げて座り込んだ。
 その様子を見て笑いながら、スガタは軽く息を整え隣に座った。
「でも前より筋力ついたんじゃないのか? 一撃が重くなった」
「そうかな」
「ああ」
「そっか」
 タクトは嬉しげに笑った。その拍子に額から一筋の汗が流れた。
 額からすべり落ち、髪が張り付く頬。
 とがった顎をたどって、細首。
 咽仏、筋をつたい、浮き出た鎖骨へ。
 そして、着崩れた道着からのぞく胸元に流れ落ちた。
 スガタの眼は自然とその様を追っていた。触れてみたいと、思った。
 汗がたどった跡に指を這わせてみたい。そして、もっと奥まで触れてみたい。
 身体は自然と動いていた。
 腕が惹きつけられるように上がり、指がタクトの頬に触れようと伸ばされる。指が肩の上にまできたとき、道着の袖がタクトの腕に触れた。
「スガタ?」
 名前を呼ばれ、はっと意識が戻る。スガタを映す赤い眼が不思議そうに瞬かれる。小さく首も傾いでて、房になった髪がはらりと落ちた。
「汗がすごい」
 何でもないことのように笑みを浮かべ、指を指す。タクトも「ああ」と頷いて笑った。
「さすがに熱くてさ。汗とまんないよ」
 ひらひらと手で風を送る。袖口は肘の位置。腕が動くたび、ちらりと二の腕が見え隠れし、日に焼けていない白がちらつく。
 濃紺の道着との鮮やかなコントラスト。
 また手が伸びそうになったのを、手を握り締めることで堪える。見入らぬように瞼を閉じて、視界を遮る。視覚がなくなった分、他の感覚がよりはっきりとしてくる。
 道場の窓から心地良い風が入ってくる。その中に薫る、夏の匂い。
「もう夏も近い」
「夏かぁ。この島の夏はどんなかな。楽しみだ」
 眼を細めて笑うタクト。その小さな動作も、僅かに触れ合っている道着の袖から振動が伝わってきて、そちら側だけ熱い。
「これから熱くなるなぁ」
「ああ」
 すでに熱くなっているのは隠して、すぐそこまできた夏を想う。
 タクトがこの島に来て二つ目の季節。スガタがタクトに会って二つ目の季節。
 今年の夏はそれぞれにとって初めての夏になるだろう。
「そろそろ出よう」
「うん。汗もかいたし、スガタん家のお風呂でゆっくりしようっと」
 タクトは広い浴場をすっかり気に入ったらしい。稽古の後の入浴をいつも楽しみにしている。その様子に微笑みながら、道場を出る。
 道すがら、スガタの数歩後ろを歩いていたタクトが「あっ」と短く声を上げた。
「どうした?」
「ちょっと、動かないで」
 振り向けば、不意にタクトの指が伸ばされ、ほんのつかの間、その指先がスガタの髪のに触れた。
「……タクト?」
「ごめん、なんか光ってるのがついてるって思ったら、汗で濡れてただけだった」
 照れたような笑みを向けられて、スガタは寸分の狂いもない笑みを浮かべると「そうか」と頷いて再び歩き出した。
 どうしてくれようか、あの警戒心のない赤色を。こっちが我慢をしているというのに、何故自ら箍を外してしまうようなことをするのか。何だ、手を出してもいいということか。
「お風呂楽しみだなぁ。あ、そうだ。背中流し合いっことかしてもいい?」
 前から友達とやってみたかったんだ、と尋ねてくるタクト。
 これまでも稽古の後の入浴は一緒に入ってきた。そのとき、スガタの心中では様々なものが駆け巡っていたが、それを全て笑顔で覆い隠してきた。
 稽古後の姿に見とれ、不意打ちで触れられ、それだけでも色々と危ないと思っていたところへ落とされた、タクトの発言。
 スガタの、何かが切れた。
「ああ、いいよ。僕もやったことがない」
「ホント? やった」
 はしゃぐタクトと剣呑な光を眼に宿らせて輝く笑顔を浮かべるスガタ。
 夏の薫りがする風が二人の髪を揺らす。

 季節も想いも、熱は増すばかり。
作品名:汗、熱、夏風 作家名:みそっかす