冒険は終わらない
『お父様…』
2年前のあの時も、お前はそう呼んだな。
誰に似たか、人一倍正義感が強く、頑固で、お転婆で。そんなお前だったから、危険を承知で好きにさせたものの、音信が途絶え、何処にいるかもわからない状況の中、立志式も待たずに飛び出したお前を、止めるべきだったかと悔やんだこともあった。
どれほど危険な橋を渡ったかは、カルーのもたらした手紙とイガラムの事後報告から想像するほかはないだろう。お前のその、晴れ晴れとした表情からは何ひとつ読み取れないのだから。
しかしお前は、無謀と勇気を間違えてはいなかった。
その誠実を見誤りはしなかった。
揺るぎない意志と真摯なその瞳でお前は遥か未来を、…この、アラバスタの地の平和だけを見据えていたのだろう。
曇った私の眼が何を見ていたか、少しだけ恥ずかしく思おう。
お前の心眼が間違っていない証拠に、お前の連れてきた仲間は素晴らしく気持ちの良い連中だった。
それは、父として脅威を感じるほどに。
仕方がない、と覚悟はしていた。けれどお前は。
娘として、王女として、この国にも私にも縛られる必要はない。そう言った私に微笑んだお前は。
砂煙を上げ、東を目指したお前は今、何を思う?
しばらく見ない間に想像もつかないほどの成長を遂げた娘よ。
お前は間違っていないのだ。
好きなようにやればよい。
これ以上、お前が犠牲になる必要は何ひとつないのだ。
しかし、穏やかな表情で下したその決断が、この国を愛し、民を愛し、私を愛してのことであるならば。
この国の王として、そしてお前の父として、今しばらく、喜んでもいいだろうか。
その優しさに、甘えてもいいだろうか。
晴れがましい気持ちで東を目指す娘よ。
お前はお前の思うままに生きればよい。
見出した光は今、お前の胸にも灯るのだから。
…ああ。
広場が騒がしさを増す。
鳩が飛び、さらなる歓声が上がる。
凛とした、朝日のようなお前の姿が目に浮かぶ。
『少しだけ、冒険をしました』