一理ある。
3人に激励の言葉を貰って別れ、久々知は先ほどメールで確認した待ち合わせ場所に向かった。
「あ、兵助!」
靴を履き替えていると、先に下足場に来ていたらしい尾浜が駆け寄ってきた。紺色のダッフルコートの下で、赤いチェックのスカートがひらりと舞う。
冬場にスカートは寒そうだ、と思って見ると、彼女はちゃんと温かそうな黒いタイツを穿いていた。
「ごめんね、遅くまで残らせちゃって・・・」
尾浜が申し訳なさそうに両手を合わせる。下足場の開いた扉から吹き込む外気が冷たいのか、その吐く息は白かった。
「いいよ、俺も勘ちゃんと帰りたかったし」
久々知が3年間履き続けた革靴を引っ掛けながらそう返すと、尾浜はマフラーの下に顔を埋めるようにして照れくさそうに笑った。
「えへへ・・・私も」
どうして冬なのにあの空間だけ暑苦しいんだ、と言ったのは久々知の後からやって来た竹谷だった。
校門を出たあたりで、ふいに尾浜がこう切り出した。
「あ、あのね、これなんだけど・・・」
コートのポケットから何か小さくて赤いものを取り出して、差し出す。
「はい。明日からがんばってね、兵助!」
それまで数メートル後方からニヨニヨ眺めていた竹谷たち3人が、その瞬間「うわぁ・・・」と苦笑した。なぜなら尾浜が渡したそれは、まさしくあの定番合格グッズ―――キットカットだったのだ。
しかし久々知は、
「か、勘ちゃん・・・・・・っ!!」
今にも感動で号泣しそうな声を上げたかと思うと、いきなり尾浜を抱きしめたものだから3人は驚いた。というか引いた。
しかも彼女のほうも恥ずかしそうにはしているが、何やら嬉しそうに真っ赤になっている。
「・・・何だアレ」
「頭の良い奴の思考回路は分かんねーな・・・」
「や、まぁあの2人だけだと思うけどね」
キットカットの袋に書かれた尾浜直筆のメッセージにさらに感動しつつ歩いていく久々知と尾浜を、彼らは遠い目で見送った。