百年分のあなたを持っていく
有翼人ってのは、雌雄同体なんだ。
ああ、体じゃない。精神が、だ。男として女としてって意識が希薄なんだよ。
俺たちは無翼の大多数より断然寿命が長いから、どうしたって番は死ぬし、同族の奴と交わったところで子ができれば終わりだ。男は俺みたいにすぐ戦いに出掛けるからな。子育ては女の役目なんだ。有翼人にも一応そういう割分担こそできてるが、実のところ女の有翼人は男勝りなのさ。子持ちの女は特に、な。
男は奪う為に戦い、女は守る為に戦う。俺にはその両方が備わっている。奪う為に風を狂わせる、守る為に翼を広げる。男も女もそう変わりゃしない。
俺たちは寂しいんだ。
みんな、みーんな、俺を置いて逝くだろう。ウォーレンもギルダスもミルディンも、みんな死んじまうのさ。戦争があろうがなかろうが、この世が平穏でみんなが剣を取らなかったとしても。もちろんあんたも例外じゃない。だから俺はあんたと一緒に戦うしあんたの言葉を命がけで守る。あんたが望む死を看取れるように。男として父として母として、番として。
あんたは死んだ奥方が大事みたいだが、それこそ俺にはどうでもいい。俺はあんたに惚れちまった。ついていく理由はそれだけで十分だ。
あんたはよくやった。だからもう、心配しなくていい。あんたのことは俺が覚えておくから。あと百年、俺があんたのことを記憶しておくから。
だからあんたは好きなだけ忘れてくれ。
今のあんたの幸せがどこにあるのか、俺には分からない。だからあんたが思うように、思うがままに、俺はあんたについていくから。
俺の百年をあんたにやるから。
作品名:百年分のあなたを持っていく 作家名:ケン太郎