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非日常的なる我が日常

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非日常というのは日常とは異なるから非日常なのであって、連日のように起こるそれは既に非日常ではない。
故に眼前で繰り広げられる光景が見慣れたものとなってしまった今となっては、もはや日常の範疇なのだ。

例えそれが非常識的な光景であっても。


「イーザーヤぁー!!!」


お馴染みの怒声を号令に直線的に飛来する自動販売機。
向かう先は人を馬鹿にしたようなチェシャ猫の笑みを浮かべる黒髪の男。
ひょいと横に飛んで躱し、地を蹴った男は加害者との距離を詰めると手中にあったナイフを閃かせた。
剣呑な一線は相手の次なる攻撃によって阻まれる。
両者の間には道路から引き抜かれたガードレールが拉げた無残な姿を晒していた。


「本当にシズちゃんてワンパターンだよねぇ。あーやだやだ」


わざとらしく肩を竦め愉しそうに、そして一握りの嫌悪を滲ませて芝居染みた台詞を吐く。
動作の一つ一つ、台詞の一つ一つが相手を苛立たせるように計算し尽くされていた。
そして実に効果的に、池袋最強の男の怒りに油を注ぐ。

平和島静雄はキレさえしなければ物静かな男だが、折原臨也を前にして物静かだったことはなかった。
折原臨也の姿を見たらコンマ数秒で手近の自動販売機やら標識やらを投げつけるのが常となっている。
その察知能力たるや軍事レーダー並みで、臨也が池袋にいるだけで平和島静雄は苛立ち、怒りは沸点を超えるのだった。

だから今日は彼にとってイレギュラーだったのだ。
数メートルの距離まで接近を許すなんてことは。


「何話してたんだか知らないけどさー、シズちゃんたらほのぼののほほんオーラ振り撒いちゃって、軽くドン引きモンだよねー。ほーんと勘弁してよ」


大げさに振られた頭を眺めながら、先程から二人の喧嘩と呼ぶには過激な応酬を見ていた竜ヶ峰帝人はどうしたものかと小さく溜め息を吐いた。
無論この二人を止められる筈などなく、ただ事態の沈静化を待つより他ない。
二人を止められるのはあの露西亜寿司の巨漢、サイモンくらいなのだから。

臨也が池袋から立ち去ってくれさえすれば静雄の怒りも静まるのかも知れないが、どうやら立ち去る気はないようだった。
こちらに整った顔を向け、ひらひらと手を振ってくる。
それがまた静雄の新たな怒りの元となった。


「臨也、てめぇ…殺す!今すぐ殺す!」


叩き付けた靴底に、アスファルトが砕け散る。
再度二人は戦闘モードへと突入した。

折原臨也が自分に構うのはよからぬ思惑あってのことだと帝人は思っているが、今回は単純に静雄を揶揄いたかっただけなのかも知れない。
だがどちらにせよ傍迷惑なことには変わりないのだと、路上の惨事を眺めつつ再度嘆息した。

非日常というのは日常とは異なるから非日常なのであって、連日のように起こるそれは既に日常の範疇である。
池袋最強の男と人間を愛して止まない男が戦闘を繰り広げるのもまた日常である。

自分が望んだ非日常とはかようなものだったのだろうかと、日常になってしまった光景を眺める帝人の視線の先で、また標識が一つもぎ取られた。
作品名:非日常的なる我が日常 作家名:雨城 透