閉じ込められてあげる。
大変です、朝起きたら監禁されていました。
臨也さんのベッドに。
「・・・ねえ臨也さん、僕思うんですけど、拉致監禁って犯罪ですよね」
「寒い」
「人の話聞いてください。っていうか放してください今日も学校が」
「寒いからだめ」
がっちりと抱き込まれて、どう足掻いてみても抜け出すすべもない腕の中。帝人は途方にくれて息を吐いた。あれおかしいな僕はたしかに自分の布団で就寝したはずなんだけど、と自分の行動を振り返る。たしかに、チャットでは最近すっかり寒くなった、なんて話題も出た。甘楽さんが寒くて布団から出られないから今もベッドでチャットしてる、とか言っていたし、帝人も布団が薄くて寒いから目が覚めたら暖かいベッドで寝てた、なんてことにならないかなーとか言った。
言ったけど、どうしてこうなった。
「臨也さん、ほんと放してくださいってば!」
「寒い」
「いやそりゃ僕も寒いですけど!」
ここは多分新宿だろうし、時計を見ればそろそろ支度をしなければ学校に間に合わない。なんとかしてこのぎっちりと抱きしめてくる腕から逃げなくては、と思うのだが、抱きついてくる23歳児は一向に放してくれる気配がない。
どうしろと。
「臨也さん、遅刻・・・っ」
「休んで」
「はあ!?」
「寒いから休んで」
何を言い出すのだろうこの男は。いや、こんなどうしようもないことを言うのがこの男だと分かってはいるが、それにしても今まで学校を休めなんてことは言い出さなかったのに。急に一体どうしてしまったんだ。
「って言うかなんで僕はここに・・・!?」
移動させられたにしても全く気づかなかった。帝人が恐る恐る尋ねると、臨也は急に抱き締める腕に痛いくらいの力を込める。
「もうすっごい寒かったの!深夜だし!風冷たいし!あんな寒いと思わなかった!」
「は、はあ?」
「指先まで冷え冷えで!迎えに行ったの!寝てるし!」
いや、そう言われても夜は眠るものだ。なんという理不尽な言い分だろうかと思うのだが、これ以上強く抱きしめられたら拉致監禁の上に傷害罪が加わってしまいそうなので無言を貫く。
「しょうがないから担いできたの!暖かかったから!」
「人肌ですからね・・・」
「だから帝人君は今日学校を休むべき」
「いや、意味がわかりませんよ!?」
眠い時人の体温は高いのだという。そういう意味でも、臨也の言う「暖かかった」は正しい。ものすごく正しいし、湯たんぽがわりにして寝ていたのなら、いなくなると寒いから嫌だというのも、まあ理解できるとして。
「僕の意志は!?」
いくら恋人同士だからと言っても、さすがに本業に支障をきたすのは良くないと思う。学生は勉強が仕事だ。けれども臨也はそう言って逃げようとする帝人をていっと押し倒して、仰向けの帝人の上にうつ伏せにのしかかった。
本当に、どこの幼稚園児だ。
体使われたら本気で逃げられない。
「・・・だって暖かいベッドで寝たいって」
ボソリ、言われたのはそんなこと。
「はい?」
「帝人君あんまりおねだりとかしてくれないし・・・」
「はあ?」
そりゃ、言った、言ったとも。チャットで冗談みたいに、目が覚めたら暖かいベッドで寝てた、なんてことにならないかなーとか言った。でもそんなのは、ただ「目が覚めたら大金持ちになってないかなー」的な発言であって、別に本気ではないのに。
要するにそれを本気にされたと、そういう意味でいいのだろうか。
「・・・暖かい、ですね」
混乱する頭で、帝人はとりあえず臨也にそう返した。でしょう!と臨也は顔を上げて、得意げに。
「だからね、恋人同士の拉致監禁は合法なんだよ!つまり君は俺に監禁されるべき!」
いやそれはない、と突っ込むべきなのか、否か。
しかしニコニコと微笑むこの男に、んなわけあるか、とでも言おう物ならここから本気の監禁に移行してしまいそうでもある。腕の中位で済むならばそのほうがいいのかも知れない。けど学校がある。
帝人は時計をもう一度見た。
別に今日学校に行かなくても、出席日数は足りているし、勉強が分からなくなるということもない、と思う。テストもないし、平気ではある。
本当はこういうずる休みは、一度してしまったらその後もずるずると休んでしまいそうで、したくなかったんだけど、と帝人は息を吐いた。たしかに今日は寒い。
幸せそうにぎゅっと帝人に抱きつく23歳児に、仕方が無いなあとため息を付いて、帝人はどりあえずその背中に腕を回した。とりあえず重いから上からどいてもらおう。それでお昼には高いものをおごってもらうんだ、お寿司とか、大トロとか。だからもう、それでいいや。
「わかりましたから臨也さん上からどいてください」
合法だろうが違法だろうが、まあ別にいいんだけど。相手は折原臨也だし。理屈も屁理屈も通じないし。
「まあいいですよ、あなたが犯罪者でもそうでなくても、残念なことに愛していますから」
溜息と同時にこぼれた本音。
これだから帝人君が好き、と、23歳児は猫のように笑った。
作品名:閉じ込められてあげる。 作家名:夏野