深まる
「…んー、やっぱ広い風呂はいいよなあ」
週末稽古後、汗を流し「そのままゆっくりしていけ」という言葉に甘え、手触りのよいシーツの上でまったりしながらそう呟くと心地良さに目を細める
そんなご機嫌の猫のようなタクトに隣で本を読んでいたスガタはじっと見つめ、何か思いついたようにページを閉じると近寄ってきた
覆い被さるよう相手を覗き込み、手を伸ばす
足は体を挟み、それはまるで襲う寸前(タクトはそんな事気付きもしないが)
「……あの、スガタさん…?」
無言でぺたぺたと自分の体を触る男に首を傾げ、混乱した目で見つめるタクト
だが相手は何も答えず、腕、腰、髪と触ってきて、最後に頬に触れ息を吐く
そのまま手を当て、「…うん、やっぱり思った通り」と、ふと目を和らげ優しく微笑を向ける彼の表情にどきり、胸が鳴った
「…な、何いきなり」
煩く響く鼓動を無視しようとするが、目は泳ぐ
咄嗟に動揺を隠せるわけもなく、声を震わせながら答えるとますます相手は笑みを深め、もう片方でタクトの手を掴むとゆっくり指を絡め、
「…柔らかいね、──体」
そっと甘く囁いた
動いた際、ぎしりとベッドが軋み、その音に頬が熱を持ち、何度か口を開け閉めした後漸く声を出す
「……や、柔らか、い…?」
その声は掠れ、瞳は困惑したように潤むが直ぐに気を取り直すと「な、何言っちゃってるか、なあ」と、これ以上は何故かやばいと男を離そうと体を押す
だが、頬に当てていた手で掴まれ、シーツに押さえ込まれ目を見開く
(あ、あれ?これは…いっつあぴーんちッというやつですか…!)
そんな慌てるタクトの表情に、とろりとした甘い笑顔を向け、
「───気持ちいい」
ずっと触りたくなるね、と耳に顔を近づけると口で挟んだ
「んッ……す、スガタ…!」
「何…?」
耳元でちゅ、という音が聞こえ、顔を真っ赤に染め思わず指に力が入る
「ち、ちょっと待って…ッ」
「待たない」
耳から首へ、鎖骨、顎の下や頬になぞる様、熱を落とされその度に体を揺らす
柔らかく微笑んだ顔が近付くと、ぎゅっと目を閉じ、瞼の上にキスをされ沸騰寸前のように視界がくらくらと揺れ「も、無理…!」と懇願するよう零した
嫌がらないタクトの様子に、嬉しそうに目を細めると繋いだ手を持ち上げ、口付け
その余裕な表情に悔しく思い、むっと眉を顰めると逆に引き寄せ、額に唇を寄せた
「た、タクトッ…!?」
「仕返し…!!」
まさかされるとは思わなかったのだろう。盛大に顔を染め、尚且つそのまま頬に熱を落とすタクトに、スガタは目元を染める
「や、やられっぱなしは僕の性に合わないんだから…ッ」
どうだ!とばかりにスガタを睨みつけるその姿は、トマトのように熟れた表情で迫力はない
「──それはこちらのセリフだ」(ああ、もうお前は…!)
固まっていた思考を復活させ、何かに切れたよう唸るスガタに目を丸くすると、ぐっと近付き距離を詰めてきた
ひっそりと芽吹く何かにタクトは目を自然と閉じ、絡まる指を握り返す
(……ほんとは、……なんだけど、な…)
距離は────ゼロ