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ゆめはおわる

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 がたがたとタイヤが砂利を踏む音で、夏野ははっと目を覚ました。車の後部座席にひとり、少しだけ開かれた窓から入ってくる風はひんやりと冷たく、秋の深さが感じられた。おぼつかない頭でも、このふわりとした現実感のなさに、夏野はすぐに夢だと気づいた。
「起きたのか?」
 落とされた声は、起きていたら気づく程度に、と小さく、気遣いのあるものだった。運転席にいる彼はスーツを着て、ハンドルを握るその指に煙草を挟んでいる。夏野はみたことのないその姿を見て、これが起こるはずのないもしもの未来なのだと、すんなりと納得した。彼は仮免だったから隣に誰もつかずに運転できるはずがないし、そもそも現在、彼はもう死んでいたのだ。そして夏野を襲った。
「煙草、吸ってるんだ、」
 ほかにも言いたいことはたくさんあった筈なのに、夏野が発したのはそれだった。夏野ぉ、おまえ、もう何回か見てるだろ。今更だなあ。脳天気でな笑い声。
「社会人は色々と大変なんだよ」
 ほんの数ヶ月前まで当たり前で日常だったものは、今はもう二度と帰らないのだ。慣れた仕草で煙草の灰を落とす彼も、スーツも、違和感しかないのに、これが現実であったならどれだけよかっただろうか。あのまま、屍鬼さえ訪れなければ、こんな未来が訪れていたのか、と考えずにはいられなかった。自分らしくもないな、と嘲笑が漏れる。
「どうかしたのか?」
 ちらりとのぞき込んでくるほほえみに、冷たい涙を流し夏野の血を吸っていった苦しみに歪んだ血色のない彼が思い出された。きっと今も、自責の念に捕らわれてひとりで泣いているでだろう、彼をおもった。
 もう彼は止まらないだろう。親友を襲ってしまったのだ。ここで止まってしまったらあの時やったことはなんだったのだ、と考えるに違いない。そのたびに涙を流し、自分を憎み、そうして人間とは違った生き物にこころも変わり果てていくのだろう。思い出だけを糧に生きて。
「徹ちゃん、」
 ん、と煙草をくわえたまま、相づちが帰ってくる。
「おれ、あんたのことがすきだった」
 じぶんでもずっと気づかないふりをしていた。
 夢の中の自分がそっと告げるように落としたそれは、けれどあまりにも簡単に、自分の胸へと染みていく。今更になって、やっと気づいたのだ。
 秋の夕暮れ、虫の鳴き声が聞こえる。ひどく鳴り響くそれは、きっと夢の終わりを告げているのだ。

作品名:ゆめはおわる 作家名:きみしま