全てを
「……また、寝不足だというのに…」
結局押し切られ、そのまま泊まってしまった
甘えるように、確かめられるように体中触られ、沸騰寸前
(どうせ筋肉付きにくい体ですよー)
ぶすっと口を尖らせ、その時を思い出し熱を追い出すよう、ふるふると首を振るとベッドへ滑り込む
顔を腕で覆い、深々と溜め息を吐くタクト
「──知らないからな」
ばかスガタ
小さく空気に溶けるよう呟くと、意識を闇へ落とすのであった
◆ ◇ ◆
深い深い、暗闇の中
独り漂う
ふわふわと黒に抱かれ、閉じていた目を開けるとそこは───海
ただ広いだけで、寒々として静寂に満ちたそれはまるで自分の……心
映像はそこで途切れ、意識が浮上する
「……」
ぼんやり目を開け、天井を見詰めていると「…大丈夫か?」と影が覆い、目の前にはスガタが
心配そうに覗き込み、額に手を当てられる
自分とは違い暖かな体温に目を細め、緩慢な動きで視線を合わせると、
「……なんでいるの?」
それはそれは低い音で問いかけた
その声にスガタは一瞬肩を揺らすが、何事もなかったように微笑を浮かべ「…タクト、また寝不足だったろ?」と語尾は疑問系だが確信に満ちた表情で話す
「…それが、なに?」
スガタには関係ないでしょ?と目をさらに細め相手を見つめると、歪む顔
(──ああ、傷付けた)
今だ寝不足の頭は動いてくれず、ただ彼を苦しめる言葉しか出ない
それならばいっそ黙ってしまおうと口を閉ざし、当てられた優しい手をどけ横を向く
顔を見なければ、喋らなければスガタを傷付ける事はない(本当は違うだろうけど、僕にはそれ以外思いつかないんだ)
回らない思考に苛立ったように眉を寄せ、シーツを手繰り寄せようと手を伸ばすと、柔らかな温度に包まれた
びくりと体を揺らし、動きを止めたところに腕を引っ張られる
そのまま勢いよく反転させられると、抱き寄せられた
「…確かにタクトには関係ないんだろうけど…僕が嫌なんだ…ッ」
力強く抱きしめられ、「…いたい」と零すが、ますます強まる腕
「タクトは分かってない…!自分の魅力を、影響を・・・!!」
ぎりぎりと音がするそれに、(ああ、痕が付いたんだろうなあ)とどこか他人事に思うタクト
「……スガタ、こそ」
わかってない…と小さく小さく呟き、垂れ下げていた腕を彼の背中に回すと、ぎゅっと抱きついた
その動きに、はたっと我に返ったようにスガタは力を緩め、「た、タクト…!?」慌てて離そうとするが今度はタクトが力を込め、擦り寄ってくる
「…さむいんだ…」
冷えた体で相手に猫のように頬を寄せ、ただ「さむい」とだけしか言わないタクト
混乱したように見つめ、恐る恐る再び抱き寄せるその熱に、ほっと息をつく
「…ばかスガタ。いっただろ?……こうかいしてもしらないからなって」
眠りにつく前に放った言葉は、分かれる前にも直接彼にも言った
不思議そうに瞬き、だが前にあった出来事を思い出したのだろう。若干引き攣った顔で笑み、「おやすみ」とただ手を振り見送る姿に少し苛立ったのは…秘密だ
「うッ…でも…」
「でももへったくれもない。僕のねおきはこうだと…」
しっているだろう…?と首を横に傾け、目を細め見つめる
瞳の奥の感情に気付かれる前にさっと閉じ込め、相手の肩に顔を埋め「…さむい」と、もう一度呟いた
「…うん、ごめん、ね。そうだな、寒いな…」
そんな様子にスガタは何も言わず、きゅうっと熱を与えるよう抱きしめられ、「ん…」そっと頷く
(ごめん)
その一言が伝えられなく、変わりに応えるよう回した腕に力を込め、(いつかちゃんと謝らないと)甘えている自分に苦く笑みを零し目を伏せるのであった
(ほんとうは、めぶいているなんて…もうすこし、きづかないふりをしよう)
(くやしいし、な)
しばらくした後、くんと服を引っ張られ、「どうした?」と顔を覗きこむスガタ
「…あとでいっしょにおふろ、はいろ?」
今だ寝ぼけ眼で見つめ、首を傾げながら窺うタクトにスガタは沈没した…
───全てを知るのにはまだ早い
そう心の内に‘何か’を仕舞い込み、ただ目の前の彼にふんわりと微笑んだ