幸せalbum
「はいはい。落ち着いてくださいね。学人は3番目と6番目。サイケは1番目と5番目と最後ですよ」
サイケと学人が通う来良幼稚園では、本日お遊戯会が行われていた。
人ラブとかほざいていた臨也だが、実際子供が生まれてみると、まさかの子煩悩になっており、特に男の子ではあるが帝人そっくりの次男、学人に対しては溺愛といっても過言ではないほどで、臨也を知っている知人らは揃って鳥肌をたてたくらいだ。
そんな子供たちのお遊戯会。
臨也は、数日前から最新式のビデオカメラやデジタルカメラ等を買い始め、今日は朝一からベストポジションを陣取っていた。
「あ...サイケからなんだ。サイケはあの変な踊りとかお遊戯でしょ?家の中で騒いでたから覚えちゃったよ」
「変って...。一生懸命練習してましたよね。可愛くできてたから、きっと今日もしっかりできますよ」
「練習じゃなくて、遊んでただけだろ?ところで学人くんは?家で何もやってなかったみたいだけど、何やるの?」
「恥ずかしがって家でやらなかったんですけど、踊りと歌をやるんですよ。....ただ...絶対に騒がないでくださいね!何があってもですよ?.....騒いだら刺しますから」
「...き、肝に銘じておくよ....」
にっこり笑顔だけど、黒いオーラ全開でどこからか出したボールペンを構える帝人に、臨也は冷や汗を垂らしながら、”絶対に騒がない”と心のメモ帳にしっかりマーカーで記入するしかなかった。
* * *
お遊戯会も順調に進み、ついに後半も終わりに近づいてきた。
「あ、次は学人のですね。”butterfly”の曲に合わせてウェディングをイメージして踊るんですよ」
「.....はぁ!!?ちょ、ちょっと!!ウェディングってどういうこと!!?俺の学人くんお嫁になんてやらないよ!!俺、相手殺しちゃうよ!!?」
帝人の一言にかなり焦りまくっている臨也だった。溺愛してやまない学人の結婚。つまりは息子だけど、娘を嫁に出すような気持ちをまさかこんなに早く体験するとは思わなかったのだ。
「さっきも言いましたよね。こうなるのがわかってたから初めにもいいましたけど、騒がないでください!いいですね!騒がないでくださいよ!大事なので2回言いましたからね。...一応ボールペンはしっかり終わるまで握ってますから」
「.........はい」
最愛の妻にもともと敵わないのだが、特にボールペンを持ってる時は絶対に逆らってはいけない。
「ほら、はじまりますよ。静かに見ましょうね!」
『次は、さくら組の可愛い花嫁・花婿さんによるダンスです。お楽しみください。』
ナレーションの後、静かに幕が上がると、そこには予想外の光景が広がっていた。
「っ!!!!!」
「....あ!」
花嫁姿の学人と、なぜか組が違うのに学人のペアとして花婿姿のサイケの姿が...。
「ちょ、ちょっと!!学人君すっごく可愛い!!帝人ちゃんとの結婚式思い出すんだけど!!帝人ちゃんそっくりだから、似合いすぎだし、恥らってる姿がまた可愛いすぎて!!どうしよう!!涙、涙がとまらないんだけど!!ってか、サイケは何やってるの?!俺の学人くんの相手がサイケって!!まぁ、見も知らずのクソガキだったら、ナイフ飛ばしてたかもだから、ある意味よかったけど...」
感動して涙を流しつつも、マシンガントークはとまることなく、右手ではビデオカメラで撮影しつつ左手では写真をとるという、なんとも器用すぎる行為をしていた。
「だから、ぎりぎりまで来ないでって言ってたんですね。でも、相手がサイケって事は...。あの子顔もだけど、たまに臨也さんみたいな性格になるときあるから、...先生脅したのかも...」
そんな臨也に対し、帝人の方は冷静に分析し静かにため息を吐き出した。
事実、男女の人数が足りなくて可愛い顔の学人は必然的に花嫁役になったのだった。そして、それを知ったサイケが園の先生を脅して学人の相手役になったのだ。
まさに帝人の考え通り。
学人とサイケの踊りは息もぴったりで可愛らしく、皆の注目を一身に浴びながら過ぎて行った。
こうして、全プログラムが終了し、無事に来良幼稚園のお遊戯会は幕を終えたわけだが、新宿にある折原さん一家では、しばらく気持ちの悪い光景が続いていた。
撮影した学人のウェディング姿を、嬉しいのやら悲しいのやら複雑すぎる気持ちで涙を流しながら見続ける新宿最高の情報屋の姿が...。。。
~おまけ~
「し、静雄さん!!見てくれましたか?学人頑張りました!」
「おう。上手に出来たな!その姿もすげぇ可愛いぞ」
実は学人におねだりされてお遊戯会を見に来ていた静雄。皆の目を盗んで静雄のところに来た学人は、顔を真っ赤にしつつも、嬉しそうに報告した。すると、静雄も優しげに学人の頭を撫でてやった。
「えへへ。嬉しいです。早く大きくなって、この格好で静雄さんの隣にたちますね」
「っ!!が、学人!!?」
もう行きますね。と声をかけて真っ赤になって慌てる静雄をその場に残して、急いで先生のところに向かった。
ある姿を見ていっぱいいっぱいの情報屋。
ある一言でいっぱいいっぱいの池袋最強の喧嘩人形。
嵐の日は近いかもしれない........。。。