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みそっかす
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novelistID. 19254
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防波堤での出来事

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海岸に沿って築かれた防波堤。
 海と陸を区切るコンクリートの壁。その上にちょこんと座って海に落ちる夕陽を眺めている制服の少年。その後姿は、スガタのよく知るものだった。
 少年の赤い髪が夕陽に当たって、より濃い赤になっている。
 深紅に燃える髪の色に眼を細めながら、スガタは彼の背中に声を掛けた。
「あんまり見てると眼を潰すよ」
「あっさりと怖いこと言わないでよ」
 振り向いたその顔には苦笑が浮かんでいる。隣に座ってもいいかと問えば、無言で手で招かれた。防波堤に座れば、遮られていた海風があたってくる。まだ少々肌寒い。
 タクトの横には濡れたローファーと靴下が置かれていた。足を見てみればズボンの裾を捲くってある。
「水遊びでもしてたのか?」
「え?」
「それ」
 脇にあるものを指差せば、タクトは照れくさそうに笑った。
「いやぁ。海が綺麗でさ、波打ち際を歩いてたら濡れちゃって」
「それで夕陽を見ながら乾かしてたのか?」
「ここなら陽もあたるし風も吹くからね」
 足をプラプラさせながら、気持ちよさそうに風を受けている。髪が風に踊り、赤い毛筋が風の軌道を示す。
「気持ち良いなぁ、この島の風は。遠くから何にも邪魔されずに、真っ直ぐ吹いてくる。良い風だ」
「そうか」
 この島から出たことがないので、他で吹く風はどんなものか分からない。けれども、タクトが言うのならそうなのだろう。出会ってまだ間もないが、彼は嘘を言う人間ではないとこは知っている。
 陽は半分ほど海に沈んだ。水面には陽の半身が映り、空と海で一つの陽が出来た。海はつかの間夕焼け色に染まっている。
「もう陽も落ちるな」
「うん。そろそろ帰ろうか。途中まで一緒に行かないか?」
「ああ」
 是と答えれば、タクトは嬉しそうに笑い、いそいそと帰り支度を始めた。
 乾かしていたくるぶしまでの靴下を履き、ローファーに手をかけたが。
「あ」
 横着をして両方掴もうとして、右側の靴だけ落としてしまった。砂浜にぽとりと落ちた靴を取ろうとしたが、座ったままの体勢で手が届くわけもない。その様を見て、スガタは微笑むと、
「ちょっと待ってて」
「スガタ?」
 堤防からひらりと降りて、靴を拾う。あまりにも自然な一連の動作。わざわざ行かせてしまったことに悪いと思いつつも、その優しさに感謝する。
「ありがと、ごめんな」
「いいや」
 拾ってもらった靴を受け取ろうと手を伸ばすが、スガタは渡さず、タクトの右足を掴む。思わずびくりと足を動かす。
「ス、スガタ?」
「ついでだから履かせるよ」
「え、いや、自分で」
「いいから」
 にっこりと笑みを向けられれば、もはや何も言えず、されるがままにされることにした。
 スガタは大人しくなったタクトに満足げに微笑んだ。
 その笑顔に恥ずかしくなってタクトは俯くが、スガタからはその顔も丸見えで、益々羞恥心が増す。早く履かせてくれと、この時間が早く過ぎることを心底願った。
 一方スガタはこの状況を心から楽しんでいた。頭上には真っ赤になったタクトと、目の前にはかすかに震える足。笑みは深まるばかりだ。
 脛の半ばまで捲り上げたズボンの裾。
 そこからのぞく細い足。
 普段陽に当たらず白い皮膚。
 丸く浮き出たくるぶし、細い足首。
 ふくらはぎまですらりと弧を描くライン。
 足の指は丸まって、靴下を僅かに下げている。
 それにくつりと笑って、まるで主に傅く従者のように恭しくその足を手に取る。そしてその足にそっと靴を履かせた。
(う、わ、ぁ)
 これは、なんというか、とても恥ずかしい。まるで、自分が特別のように扱われるのは、こんなにも恥ずかしいことなのか。
(……たぶん、ワコにはこんな風にやってるんだろうな)
 何故かちくりと胸の奥が痛くなった気がしたが、今は羞恥に消される。恥ずかしさのあまり眼をつぶってしまうと、下から声を掛けられる。
「タクト?」
 思わず眼を開いてそちらを見れば、やけに甘く微笑まれて、もはやタクトの羞恥は最高潮にまで達した。首から上がすっかり真っ赤になっているに違いない。叫びそうになり、慌てて口を押さえる。
「はい、できたよ」
「あ、ありがとう!」
 やっと終わった羞恥の時間に素早く足を引っ込める。両脚をぴたりと合わせて、どぎまぎと硬直した。
 あからさまに動揺し、こちらの様子を窺っているタクト。まるで身を縮めて周囲を警戒している小動物のよう。やりすぎたかとスガタは少しばかり反省した。今までのことなどなかったように、わざとらしいほど平静な態度で声を掛ける。
「さて、帰ろうか」
「あ、ああ」
「でもその前に少し手を貸してくれないか? さすがにこの高さは一人じゃ上がれない」
 困った笑顔を浮かべれば、タクトも調子を取り戻したのか、いつもの笑顔を浮かべ手を差し出した。
「はい、どうぞ」
 差し出された手を掴み、スガタは身軽に上った。着地したのはタクトの真横。お互いの身体が触れ合うほどの距離。
「ありがとう」
 至近距離。
 自分の赤毛と僅かに触れ合う、さらさらとした、青い髪。
 こちらを映す琥珀色の瞳が、ゆるりと細まって。
 甘い、笑顔が視界いっぱいに広がって。
 声すらも近く、響いてきて。
「タクト?」
 手はまだ、握られたまま。
 ―――ぼふんっ!
 その瞬間、タクトのキャパシティが限界を超えた。眼を最大限に見開いて、唇は意味もなく開閉を繰り返し、勢いよく後ずさろうとするものの、握られた手は離されない。
「なっ、う、わ、はっ」
「落ち着け、タクト。落ちるぞ」
 危ないと言われ、ようやくタクトが大人しくなる。スガタが手を離せば、ずざざっ、と距離を置く。その顔はすっかり沈んでしまった夕陽より赤い。あまりにも初心な反応。もしここで「何? 見惚れた?」なんて聞いてしまったら逃げてしまうのは確実で、湧き上がる悪戯心を抑える。
「さて、帰ろうか。すっかり陽も落ちたな」
「ハァ〜、……ああ」
 帰路に着く二人。辺りはすっかり夕闇に包まれている。無言のまま歩いていれば、すぐに別れの場所に着いた。
「それじゃあ、タクト。また明日」
「あ、ああ、また明日」
 少しぎこちなくなった挨拶。スガタに背を向けて足早に去っていくタクト。
 防波堤での出来事は、確かに何かを変えていた。
 その背中を見送って、スガタも歩き出す。顔には満足げな笑み。
(少しは、意識してくれたか?)
 その足取りは軽い。

 想いを抱える二人を見守るのは、宵に輝く一番星。
                                                                     
作品名:防波堤での出来事 作家名:みそっかす