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時間泥棒

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今日があと少しで終わる時間に、時間泥棒が現れた。
動作はわざとらしくて、わりと大きいのに、あまり音を立てないで四畳半の僕のテリトリーに入り込んでくる。
時間泥棒はいつだって気まぐれに現れては僕の時間を奪っていく。
布団に入る少し前や、学校の帰り道、最近では授業中でさえ僕の時間が盗られてしまうんだ。
これは困る。
学校の宿題に集中したいのに時間泥棒が僕の時間を奪っていくから、本当に困る。
考えたいことだって山ほどあるんだ。
ダラーズの事、正臣の事、それから…少し恥ずかしいけど、気になる女の子の園原さんの事とか…そんなことを考えたいのに、いつのまにか僕の時間は奪われているのだから、ほら、困るだろ?
今日だって、これから宿題をやろうと思っていた。
ネットで少し遊んでしまったから、その、深夜と呼べるこんな時間まで宿題が終わっていないのだけれど、今からやれば1時までには終わるだろうと考えていた。
考えていた…けれど、時間泥棒が来てしまったんだ。
本当にタイミングが悪い。最近ずっと時間泥棒の顔を見ないで済んでいたのに。
あぁ、これじゃああっという間に時間が奪われて、すぐに朝が来てしまう。

「なに、帝人君、その嫌そうな顔。」

時間泥棒がひどく面白そうな顔で言った。
嫌だなぁ、しゃべらないで欲しいな。
この声は後からじわじわ効いてくる毒のようで、時間泥棒がいなくなってからも僕の体内を蝕み、時間を奪っていく。
そうなんだ、この時間泥棒は時間泥棒本体がそばにいない時でさえ僕の時間を奪っていくんだ。

「酷いなぁ、俺は帝人君に会いたくて会いたくてやって来たのに!傷つくだろ?せっかく来てあげたんだからもっと喜びなよ!」

あーあ、時間泥棒が遅効性の毒を振り撒いている。
僕にはこの毒に耐性は無いし、解毒剤も持っていないのに。
げんなりしながら僕は言う。

「しばらくずっと、姿が見えなかったじゃないですか」

そう、しばらく見かけなかった。
これでもう僕の時間は奪われることがなくなるのだろうと思ったら甘かった。
この時間泥棒は悔しいほどハイスペックで、直接現れなくても僕の時間を奪うことが出来るらしい。
時間泥棒が好んで着るファー付きのコートを街で見かけてしまった時とか、時間泥棒が好きだと言った食べ物を見た時とか、嫌いだと言った物を見た時とか、時間泥棒のことが嫌いな人と出会った時とか、そんな時に、思い出して、思いを馳せて、ほら、気付けば時間が過ぎ去っている。
限りある高校生の僕の時間が時間泥棒の為に失われてしまうんだ!

「なに?寂しかったの?拗ねてるの?可愛いね」

ばーか。

「寂しいなんて、そんなことあるわけないじゃないですか、ただ、僕の時間を奪うのは勘弁してくれませんか」

時間を返せ、ばか。

「会いに来るなって言いたい訳?」

ばか、ばか、ばーか!大っ嫌いだ!

「会っても会わなくても、あなたは僕の時間を奪っていく。会えば直接的に時間を奪って、会わなければあなたの事を考えてしまって時間が奪われる…本当に、困るんです」

時間を返せないのなら、奪っていった僕の心を返して。

ありったけの思いを込めて時間泥棒を睨み付けたら時間泥棒が笑顔を作りやがった。
それが、いつもの嫌な笑い方じゃなくて、あんまりにもやわらかく笑うものだから、僕は何も言えなくなってしまった。
時間泥棒が僕の方へと手を伸ばす。
悔しい、悔しい、悔しい。
この熱に触れてしまえば、時間どころか僕が残さず奪われてしまう。
わかっているのに、抗えない。
あと少し、ほんの少しで、その指先が、僕の頬に触れてしまう。

「臨也、さん…」

全てが奪われる前に、強く強く視線で射抜いて僕は時間泥棒の名前を呼んだ。





作品名:時間泥棒 作家名:kinya